もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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川野芽生『Blue』 割り当てられた性と、社会と、自分自身についての対話たち

歌人でもある新鋭の芥川賞候補作 Blue (集英社文芸単行本) 作者:川野芽生 集英社 Amazon 川野芽生『Blue』は雑誌『すばる』2023年8月号「トランスジェンダーの物語」特集における発表当初から話題となり、芥川賞候補ともなった小説だが、作者のキャリア…

ハン・ガン『すべての、白いものたちの』 個人と都市の記憶が静かに交錯する詩的な小説

韓国の国際ブッカー賞作家による、断章形式の小説 すべての、白いものたちの (河出文庫) 作者:ハン・ガン 河出書房新社 Amazon 1970年生まれの韓国の小説家ハン・ガン(韓江)は、2005年の代表作『菜食主義者』によって、韓国で最も権威ある文学賞と言われる…

SFと植民地 あるいはシンガポールで見る『カジノ・ロワイヤル』(自作宣伝です)

私事で恐縮ですが…… SFのテーマとしての植民地 シンガポールで見る007の衝撃 創作紹介 関連ブックガイド 私事で恐縮ですが…… Winsland House II 今回は私事と雑談なんですが、実は一昨年あたりからブログのほかに趣味でSF小説を書いておりまして、WEBメディ…

奈落の新刊チェック 2024年1月 海外文学・SF・現代思想・歴史・Blue・サイード・プルードン・ケアの倫理・バトラー・決闘裁判・温泉・タロットの美術史ほか

さて月も明けまして恒例の新刊チェックです。この記事のために見かけた書名を控えておくのですが、いざこれを書こうとすると発売が延期になっていることもしばしば。みなさま苦労して本を刊行されているのかと思います。面白い本をどんどん出してくれる著者…

長谷部恭男『法とは何か 法思想史入門』 法と道徳との関係を、人々はどう考えて来たか

著名憲法学者による、憲法と法思想の入門書 増補新版 法とは何か 法思想史入門 河出ブックス 作者:長谷部恭男 河出書房新社 Amazon 今回紹介する『法とは何か 法思想史入門』は、法学者である長谷部恭男による法学・法思想の入門書である。長谷部恭男は1956…

岡田温司『イタリア芸術のプリズム』 巨匠たちの映画に結実する、イタリアの芸術・宗教・政治

表象文化論の大家が、イタリア映画の巨匠たちを読み解く イタリア芸術のプリズム: 画家と作家と監督たち 作者:温司, 岡田 平凡社 Amazon 『イタリア芸術のプリズム 画家と作家と監督たち』は、このブログでもすでに何冊か著書を紹介している、美術史・表象文…

李箱『翼 李箱作品集』 植民地下朝鮮のモダニストによる、近代小説の冒険

1910年ソウル生まれの作家の新訳作品集 翼~李箱作品集~ (光文社古典新訳文庫) 作者:李 箱 光文社 Amazon 李箱(イ・サン)は1910年、日本統治下の朝鮮に生まれ、27歳の若さで世を去った詩人/作家だ。ソウル(当時の名は京城)に生まれ、日本語で教育を受…

奈落の新刊チェック 2023年12月 海外文学・SF・現代思想・歴史・カーミラ・魔の聖堂・ミステリウム・バトラー・作家主義以後・メロドラマの想像力・

あけましておめでとうございます。年が明けて当ブログもいよいよ3年目に突入したわけですが、一体いつまで続けるつもりなのでしょうか。誰に頼まれたわけでもない更新ですが、自分が楽しんでいるうちは続けていこうかと思います。一番読んでいるのが自分とい…

どれから読む?稲垣足穂・文庫ガイド──『一千一秒物語』『天体嗜好症』『少年愛の美学』

稲垣足穂の各社文庫の収録作を紹介 稲垣足穂と言えば、『一千一秒物語』でおなじみ大正から昭和初期の文学者、天体と飛行と無機物に憧れるモダニスト、横光利一や初期の川端康成と並ぶ新感覚派の一員、「A感覚とV感覚」を発表した独自のエロティシズムの研究…

樋口陽一『リベラル・デモクラシーの現在』 重鎮が語る、立憲主義の普遍性

戦後を代表する憲法学者の最新講演集 リベラル・デモクラシーの現在 「ネオリベラル」と「イリベラル」のはざまで (岩波新書) 作者:樋口 陽一 岩波書店 Amazon 改めて憲法に関する本が読みたいなと思い、そしてどうせならやはり定番著者の、しかも最近のもの…

木庭顕『誰のために法は生まれた』 徒党の解体と自由な個人〜法の根源を探る特別授業

法学者と中高生がともに古典を読む授業の記録 誰のために法は生まれた 作者:木庭顕 朝日出版社 Amazon 木庭顕『誰のために法は生まれた』は、ローマ法を専門とする法学者による法学入門の本だが、普通に書かれた入門書ではない。 これは中学三年から高校三年…

奈落の新刊チェック 2023年11月 海外文学・SF・現代思想・歴史・赦しへの四つの道・孔雀屋敷・ジュリアン・バトラー・言葉の風景・とるにたらない美術・四つの未来ほか

早いものでもう年の瀬ですが、早いといえばこの12月で当ブログももう開設2周年でした。どうにか細々と続けております。日頃のご愛顧のほど誠にありがとうございます。まだしばらくは趣味として続けていければと思います。 それでは11月の気になる新刊から。 …

小川洋子の短編の後ろめたい楽しみ 『薬指の標本』ほか

静謐で幻想的な短編集 薬指の標本(新潮文庫) 作者:小川洋子 新潮社 Amazon ※今回は本の紹介というよりも、かなり個人的な楽しみについてのエッセイのような文章です。 これで小川洋子に関する記事を書くのは二本目だが、正直いって私は、この作家がどうい…

マポロ3号『PPPPPP』 誰も読んだことがなかった、鮮烈な視覚的ピアノ漫画

『対世界用魔法少女つばめ』連載中のマポロ3号のデビュー作 マポロ3号の新連載が、ついにジャンプ+で始まった。タイトルは『対世界用魔法少女つばめ』。 shonenjumpplus.com 「まどマギ」を思わせる終末型の魔法少女もの、という定番モチーフの漫画だが、そ…

千葉雅也『デッドライン』『オーバーヒート』『エレクトリック』 世界と欲望の解像度

哲学者による、自伝的な小説三部作 デッドライン(新潮文庫) 作者:千葉雅也 新潮社 Amazon オーバーヒート 作者:千葉 雅也 新潮社 Amazon エレクトリック 作者:千葉 雅也 新潮社 Amazon 千葉雅也の『デッドライン』『オーバーヒート』『エレクトリック』の3…

奈落の新刊チェック 2023年10月 海外文学・SF・現代思想・歴史・夢見る宝石・金星の蟲・肉を脱ぐ・文学的絶対・吉田健一に就て・ニューロ・闇の精神史ほか

最近は弊ブログの更新頻度も徐々にスローペースになっており、あまり投稿していないうちに、気が付いたらこの新刊チェックの時期になっていることもしばしば。そのうち新刊チェックがこのブログのメインコンテンツになるかもしれませんが、まあそれはそれで…

星野太『食客論』 他者との「共生」という難題を、食事から考える哲学的エッセイ

他人と生きることが得意でない私たちの、「共生」の問題 食客論 作者:星野太 講談社 Amazon 美学を専門とし、特に「崇高」をテーマとした哲学書をデビュー以来続けて刊行してきた1982年生まれの著者、星野太の初めての一般書と言える『食客論』は、しかし一…

嘉戸一将『法の近代 権力と暴力をわかつもの』 何が法律の「正統さ」を保証するのか

法学の立場から国家の役割を問う新書 法の近代 権力と暴力をわかつもの (岩波新書) 作者:嘉戸 一将 岩波書店 Amazon 私たちはふだん法律に従って生活しているが、ではその法律、あるいは法律を執行する国家が「正統なもの」であると、どのように納得している…

ウィリアム・ギブスン原作のSFドラマ『ペリフェラル ~接続された未来~』が面白い!

シーズン2がキャンセルされたけど見てほしい! youtu.be 『ペリフェラル ~接続された未来~』は、2014年に発表されたウィリアム・ギブスンの小説『The Peripheral』を原作とする、Amazon Prime Videoによる2022年のドラマシリーズだ。 シーズン1の全8話が配…

伊藤博明『ルネサンスの神秘思想』 古代異教の神々はいかにキリスト教世界に復活したか

ルネサンスにおける〈神々の再生〉──古代の思想・宗教の復活 ルネサンスの神秘思想 (講談社学術文庫) 作者:伊藤博明 講談社 Amazon プラトンやアリストテレスなどの哲学者や、ピュタゴラスやユークリッド(エウクレイデス)などの数学者、さらにはゼウスやア…

奈落の新刊チェック 2023年9月 海外文学・SF・現代思想・歴史・方形の円・厳冬の棺・悪の凡庸さ・革命と住宅・暗闇に戯れて・絵画の解放・民藝ほか

記録的な猛暑が終わり、ようやく涼しくなって来たと聞いていますがみなさまいかがお過ごしでしょうか。こちらは南国に住んでいるのでよくわかりませんが、さぞかし本を読むのに相応しい気候になってきたのではないかと想像しております。もう本でも読むしか…

SFファンは「かぐやSFコンテスト」とオンラインSF誌「Kaguya Planet」に注目を!(あと自作宣伝)

私事で恐縮ですが…… 今回はいきなり私事で恐縮なのですが、尾崎滋流名義で「第3回かぐやSFコンテスト(テーマ:未来のスポーツ)」に応募した掌編が、選外佳作に選ばれました! 『夏の夕暮れ、タナトスの子供たち』というタイトルで、5分くらいで読めますの…

山本浩貴『現代美術史』 社会の中の芸術、そして国境を越えた「脱帝国の美術史」へ

社会と関わるものとしての現代美術 現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル (中公新書) 作者:山本浩貴 中央公論新社 Amazon 2019年に刊行された中公新書『現代美術史』は、自身も現代美術作家であり現在は金沢美術工芸大学で教鞭をとる山本浩貴による、…

アリエル・ドルフマン『死と乙女』 独裁政権下の苦しみを描く凄惨な戯曲

軍政が終わったばかりのチリを題材にした戯曲 死と乙女 (岩波文庫 赤N790-1) 作者:アリエル・ドルフマン 岩波書店 Amazon アルゼンチンに生まれチリで育った作家アリエル・ドルフマン(ドーフマン)の『死と乙女』は、1991年にロンドンで初演され、後にロマ…

奈落の新刊チェック 2023年8月 海外文学・SF・現代思想・歴史・奇病庭園・チク・タク・庭・人類学・ハイチ革命・遠野物語・関東大震災ほか

日本はまだまだ暑いようですがいかがお過ごしでしょうか。日除けと水分補給にはくれぐれもご注意くださいますよう。そろそろ読書の秋と言いたいところですがどうなんでしょうね。気になる本は秋を待たずに買ってしまうなり図書館にリクエストなりするのがい…

ディディ=ユベルマン『場所、それでもなお』 強制収容所の歴史を表層/外観から読み取ること

著者の代表作『イメージ、それでもなお』に連なる論文集 現代フランスの、哲学的な美術史家とでも呼ぶべきジョルジュ・ディディ=ユベルマンの代表的な書物に『イメージ、それでもなお』があるが、その内容に関連した3篇の文章を集めた日本独自の論集が、今…

張愛玲「傾城の恋」 近代中国の葛藤を織り込んだ傑作ラブロマンス

中国の現代文学を代表する作家 張愛玲(ちょう・あいりん/アイリーン・チャン)は、魯迅と並んで中国の現代文学を代表すると言われる作家だ。1920年に上海で生まれ、1944年に初の著書『伝奇』を刊行するやいなや大ベストセラーとなったという。後年アメリカ…

竹書房文庫のSFが気になる! 独自のセレクトとスタイリッシュなデザインで攻める新進SF文庫リスト

竹書房文庫のSFがやばい! SF専門の文庫レーベルと言えばハヤカワ文庫SFと創元SF文庫が二大巨頭ではありますが(あと河出とかちくまとか他の文庫レーベルからも面白いSFはたくさん出てますが)、近年は竹書房文庫のSFがどんどん存在感を増しており、気になっ…

『シン・仮面ライダー』が表現する、特撮のヌーヴェル・ヴァーグ的異物感

生々しい手触りを目指す、庵野秀明のヌーヴェル・ヴァーグ映画 シン・仮面ライダー 池松壮亮 Amazon 庵野秀明監督『シン・仮面ライダー』がようやく海外でも公開されたので、遅ればせながら劇場で見ることができた。(すでにAmazonプライムビデオで配信が始…

岡田温司『キリストの身体』 聖なる「身体」が導く美と政治

キリストの「身体」を読み解く表象文化論 キリストの身体―血と肉と愛の傷 (中公新書) 作者:岡田 温司 中央公論新社 Amazon 岡田温司についてはこのブログでも何度か紹介しているので重複になるかもしれないが、この著者には大きく分けて二種類の著作群がある…