小説
「未来の文学」シリーズの定番短編集 以前このブログでジーン・ウルフの傑作SF『ケルベロス第五の首』(およびそれを含む国書刊行会「未来の文学」シリーズ)を紹介したことがあるが、同シリーズから出ている、同じくジーン・ウルフの短編集『デス博士の島そ…
フィッツジェラルドの短編集が多い! 1.村上春樹訳以外のもの 2.村上春樹訳のもの 収録作一覧表 フィッツジェラルドの短編集が多い! 『グレート・ギャツビー』で知られる作家スコット・フィッツジェラルドについては弊ブログでも二度紹介し、どちらの記…
70年代の韓国を描いたベストセラー チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』を始めとした数々の韓国文学の翻訳により、今ではすっかり日本を代表する韓国文学の紹介者として知られている斎藤真理子だが、今回紹介するのはその訳業の原点になったという小…
歌人でもある新鋭の芥川賞候補作 Blue (集英社文芸単行本) 作者:川野芽生 集英社 Amazon 川野芽生『Blue』は雑誌『すばる』2023年8月号「トランスジェンダーの物語」特集における発表当初から話題となり、芥川賞候補ともなった小説だが、作者のキャリア…
韓国の国際ブッカー賞作家による、断章形式の小説 すべての、白いものたちの (河出文庫) 作者:ハン・ガン 河出書房新社 Amazon 1970年生まれの韓国の小説家ハン・ガン(韓江)は、2005年の代表作『菜食主義者』によって、韓国で最も権威ある文学賞と言われる…
1910年ソウル生まれの作家の新訳作品集 翼~李箱作品集~ (光文社古典新訳文庫) 作者:李 箱 光文社 Amazon 李箱(イ・サン)は1910年、日本統治下の朝鮮に生まれ、27歳の若さで世を去った詩人/作家だ。ソウル(当時の名は京城)に生まれ、日本語で教育を受…
稲垣足穂の各社文庫の収録作を紹介 稲垣足穂と言えば、『一千一秒物語』でおなじみ大正から昭和初期の文学者、天体と飛行と無機物に憧れるモダニスト、横光利一や初期の川端康成と並ぶ新感覚派の一員、「A感覚とV感覚」を発表した独自のエロティシズムの研究…
静謐で幻想的な短編集 薬指の標本(新潮文庫) 作者:小川洋子 新潮社 Amazon ※今回は本の紹介というよりも、かなり個人的な楽しみについてのエッセイのような文章です。 これで小川洋子に関する記事を書くのは二本目だが、正直いって私は、この作家がどうい…
哲学者による、自伝的な小説三部作 デッドライン(新潮文庫) 作者:千葉雅也 新潮社 Amazon オーバーヒート 作者:千葉 雅也 新潮社 Amazon エレクトリック 作者:千葉 雅也 新潮社 Amazon 千葉雅也の『デッドライン』『オーバーヒート』『エレクトリック』の3…
軍政が終わったばかりのチリを題材にした戯曲 死と乙女 (岩波文庫 赤N790-1) 作者:アリエル・ドルフマン 岩波書店 Amazon アルゼンチンに生まれチリで育った作家アリエル・ドルフマン(ドーフマン)の『死と乙女』は、1991年にロンドンで初演され、後にロマ…
中国の現代文学を代表する作家 張愛玲(ちょう・あいりん/アイリーン・チャン)は、魯迅と並んで中国の現代文学を代表すると言われる作家だ。1920年に上海で生まれ、1944年に初の著書『伝奇』を刊行するやいなや大ベストセラーとなったという。後年アメリカ…
船乗り作家による、時代を超えた小説 闇の奥(新潮文庫) 作者:ジョゼフ・コンラッド 新潮社 Amazon ジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』は1899年にイギリスで発表された小説で、近代文学の名作と名高く、またポストモダン文学の先駆とも言われる、時代を越え…
初期に発表された連作短編集 寡黙な死骸 みだらな弔い (中公文庫) 作者:小川 洋子 中央公論新社 Amazon ずっと気になってはいるものの読んだことのない作家、というのは無数にいるわけで、私にとってそのような作家のひとりが小川洋子であったのだが、このた…
迷宮の作家・ボルヘスの代表的短編集からのお勧め短編5選 さてボルヘスです。前回、「ボルヘスの小説を読んでみたい場合、どの本を買えばいいのか?」というガイド記事を作成したところ、多くの方に読んでいただいております。どうもありがとうございます。 …
阿部和重の初期代表作 無情の世界 ニッポニアニッポン 阿部和重初期代表作2 (講談社文庫) 作者:阿部 和重 講談社 Amazon 阿部和重は私のとても好きな作家の一人なのだが、なかなか紹介するのが難しい作家である。 なぜかと言うと、小説の中に、本当にろくな…
創元SF短編賞出身作家の芥川賞受賞作 首里の馬(新潮文庫) 作者:高山羽根子 新潮社 Amazon 『首里の馬』は、創元SF短編賞の佳作を受賞してデビューした高山羽根子が、2020年に第163回芥川賞を受賞した小説だ。 私はごく最近『暗闇にレンズ』『オブジェクタ…
社会の後戻りできない変化を描いた世界的ベストセラー 昨年あたりから、英語圏で太宰治の『人間失格』(英題『No Longer Human』)がベストセラーになっているというニュースをよく見聞きするわけだが、これと並んでよく売れているというのが『斜陽』(英題…
『ギャツビー』の書き出しを読み比べてみる フランシス・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』と言えば、アメリカ文学を代表するとまで言われる小説だ。1925年に刊行され、アメリカの「狂乱の20年代」を象徴する作品とも言われる。語り手…
多ジャンルで活躍する作家の出世作 今回紹介する作家は、このところ膨大な仕事量により各方面で注目されている斜線堂有紀。 私がこの作家を初めて読んだのはSF短編で、アンソロジーに収録された短編「BTTF葬送」「本の背骨が最後に残る」が強く印象に残った…
いわゆる「純文学」というジャンル いわゆる「純文学」という、なんというか独特の、ある一定の形式と雰囲気を持った伝統的な小説のジャンルが現代日本にはあるわけですが、そしてここでの「純文学」というのは広い意味のそれではなくけっこう狭い意味のもの…
新鋭・遠野遥の芥川賞受賞作の主人公はとにかく強い 2019年に『改良』で文藝賞を受賞しデビューした遠野遥による『破局』は、作者にとっての第2作であり芥川賞受賞作である。 ちょうど文庫版が出たので紹介してみようと思ったのだが、一体どのように紹介すれ…
火村英生が活躍する「作家アリスシリーズ」の異色作 さて、これから有栖川有栖の小説を紹介するにあたり、確認しておかなければならないことがある。 正直なところ、私はぜんぜんミステリを読まない。年に2~3冊読む、かも?という程度の読者である。 コナン…
私の好きなバラードのSF短編 J.G.バラードことジェームズ・グレーアム・バラードは私が一番好きな作家のひとりだが、以前はその長編について紹介したので、今回は短編の話をしようと思う。バラードの長編と短編は、書かれている内容はかなりの部分共通してい…
「廃園の天使」シリーズの短編集(この本から読んでOK) 飛浩隆について書くのは難しい。飛浩隆を読むという体験をどのように書けばいいのか、ちょっとよくわからない。 飛浩隆の小説はSFである。そしてこのSFは、我々を無傷のままにはしておかない。我々は…
こういう小説が読みたかった 高山羽根子『オブジェクタム/如何様』は最高の作品集である。私はこれを読みながら何度も「うわーっ!最高だ!」と叫びたくなってしまい、とはいえ実際に叫ぶことはせず一人で拳を握りしめたり部屋をうろうろ歩き回ったりするに…
ボルヘスの小説はこの文庫を買えばOK ボルヘスの小説はこの文庫を買えばOK ①代表的作品集『伝奇集』/『アレフ』 ②比較的読みやすい『砂の本』 ③異色作(でも小説としてはむしろオーソドックスな)『ブロディーの報告書』 ④「ボルヘス最後の短編集」『シェイ…
『グレート・ギャツビー』と同時期の短編集 今回は光文社古典新訳文庫から出ている、フランシス・スコット・フィッツジェラルドの短編集『若者はみな悲しい』を紹介しよう。翻訳は、以前の記事で紹介した同文庫のポーも翻訳している小川高義。 若者はみな悲…
三大・渋い文学賞(個人的印象です) 芥川・直木以外にも文学賞はいろいろ(本当にいろいろ……)ありますが、谷崎潤一郎賞・泉鏡花文学賞・川端康成文学賞の三つは、個人的に「あまり目立たない賞だけど、いつも面白そうな小説が受賞しているなあ」という渋い…
英雄的でない「歴史」について書くということ 入手困難だった佐藤亜紀の傑作、『吸血鬼』が待望の文庫化である。私が読んだ佐藤亜紀作品の中では一番好きな作品なのでとても嬉しい。ぜひ多くの人に読んでもらいたい。 吸血鬼 (角川文庫) 作者:佐藤 亜紀 KADO…
6人の視点から語られる、ひとりの女性 ヒカリ文集 作者:松浦理英子 講談社 Amazon 『ヒカリ文集』は、2017年の『最愛の子ども』に続く、松浦理英子の最新作である 『最愛の子ども』については以前に紹介したので詳しくはそちらの記事を見てほしいが、これは…