もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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『ゴールデンカムイ』には「世界の全体」と、「映画のファンタスム」が描いてある。

「全部ある漫画」

 

別にこんなところで紹介しなくてもだいたいみんなもう読んでると思うのだが、野田サトルゴールデンカムイ集英社ヤングジャンプコミックス)は本当に面白い漫画ですよね。

私はおそらくアニメ化記念の100話無料公開の時に読み始めたら止まらなくなって全巻買ってしまった。

 

 


ときどき、これは「全部ある漫画」だな……と思う漫画があるんだけど、ゴールデンカムイも「全部ある漫画」のように感じる。すなわち……何でしょう、全部というのは、例えば「愛」と「欲望」と「暴力/権力」と「生命」と「歴史」とかでしょうか。

つまりこの漫画は具体的なあらすじを述べれば「アイヌが隠したという金塊をめぐって、軍人や元囚人や少数民族の人々が入り乱れて旅をしたり戦ったりする」漫画ということになるのだが、その過程において、なんというか「世界の全体」みたいなものが描いてあるように感じるわけです。

おそらくそれは、世界を構成する主要な要素(前述の愛とか欲望とか)が、限定された物語の中に凝縮されているように感じるということだと思う。杉本やらアシリパさんやらその他大勢のキャラがくんずほぐれつしつつ動物を狩ったり殺し合ったりするのを見て、「あ~、“世界”だな~」と感じるわけです。

 

映画の中にだけ出現するもの(ファンタスム)


もうひとつ強く思うのは、とても「映画」だなー、ということです。

これは具体的に映画からの引用が多いという意味でもあるんだけど、それ以上に、映画で実現されているものを描きたいと思ってる漫画なんだろうな、という意味です。

映画というのは当然、まず現実の空間があって、その中を人間やモノが物理的に運動している。それが映画に映っている。そういう、現実の空間をモノが物理的に運動することによって発生する、しかし幻想的なもの。特撮や特殊効果という意味ではなく、現実のモノと運動を撮影することによって表現される、なにかファンタスティックなもの、そういうものを漫画で再現しようという欲望を強く感じる。映画だけが持つファンタスムを、漫画で描き出そうとしているような。(「ファンタスム」は直接的には「幻想」という意味ですが、ここでは映画の中に現出する魅力的な「何か」くらいの意味で読んでください)

ゴールデンカムイで描かれるキャラクターの大胆なアクションや画面構成は、そういうことを目指しているような気がする。
完結までもう少し、どうなるか楽しみです。ちなみに好きなキャラは二階堂です。

 

次の一冊


こういう、「全部ある漫画」だなーと他に最近思ったのは、石田スイ『東京喰種』でしょうかね。どっちもヤングジャンプですね。新作の『超人X』も楽しみです。

 

 

 

私はこの漫画に出てくる二階堂浩平がとても好きなのだが、このキャラクターからは非常にダダ的なものを感じる。戦争と機械と不条理の申し子としてのダダ、そして二階堂浩平である。

ダダ、ダダイズムというのは第一次世界大戦の時代にヨーロッパで始まった反・芸術運動であり、意味や理性の転覆を目指した。この本の表紙の絵は機械の絵ばかり描いていたフランシス・ピカビアによるもので、これも二階堂っぽい。

 

 

 

20世紀初頭の前衛芸術運動とゴールデンカムイの関連について書かれた文章とかすごく読みたいので誰か書いてください。