この本のおかげでブログを始められました。
千葉雅也・山内朋樹・読書猿・瀬下翔太による『ライティングの哲学』(星海社新書)。
執筆の悩みを抱えた四人の著者が何とかして書けるようになる方法を切実に模索した本だが、何を隠そう私がこのブログを立ち上げることができたのもこの本のおかげだと思う。
この本で語られていることはシンプルに言ってしまえばたった一つ、執筆のハードルを下げることである。 別の言い方をすると、つまり出来上がった文章のクオリティを諦めることだ。
執筆という行為を実現するために文章のクオリティを諦める、この事を徹底的に肯定して推奨したのが、この本の革命的な価値転倒である。
そう、書ければいいのである。
私はもともと文章を書くのがわりと好きだったが、趣味で書いて発表するのはハードルが高いと思っていた。どうしても、一定のクォリティを満たす文章を書かねばならないと思っていたのだ。
しかしこの本を読んで、執筆という目的のために能動的に諦めるということを学んだ。攻めの諦め、オフェンシブな諦めである。
そしてこの本は一人の著者の単著ではなく、四人の著者の、対談を中心とした共著だということが重要だ。四人もの人間が、みんなで互いに「諦めよう」と言い合っているこの説得力。これがこの本の、読者をエンカレッジする力の源なのだ。
そうやって私は背中を押され、このブログに載せる文章を書き始めることができたような気がしている。
(もちろん、クォリティが不要という話ではなく、文章を完成させるには一旦クォリティを脇に置いてみよう、という話かと思います。完成しないと世に出せませんし)
読書猿:文章の書き方の本ってマナー本なんですよね。行儀作法の本。いまマナー講師ってありもしない規範をつくってお金を稼いでると批判されてますけど、文章のマナー本って基本的に「●●してはいけない」というべからず集なんですよ。正しい「文章」があるものとして、それを規範の形で説明するもの。でも、その規範に則ったものだけが文章ではないはずなんです。いろんな書き方や文章がある。(略)ただ、ぼくらのこの本は「●●してもいいよ」と促す、マナー本とは違うものにできつつあるのかなと感じています。(『ライティングの哲学』座談会その2 快方と解放への執筆論)
もちろんこの本の中には、様々な具体的なテクニックも同時に紹介されている。
どのようなマインドセットを行うことで「書けない」状況を突破するか、四人の著者それぞれがアイディアを出し合っている。
またアウトライナーに代表される、執筆に使用するツールの情報もいろいろある。(私はworkflowyを愛用しています)
手を動かす仕事や趣味全般に応用できることが書いてある本なので、特にものを書く予定が無い人もぜひ読んでみてほしい。
次の一冊
著者の一人である哲学者・批評家・小説家の千葉雅也によるもうひとつの実用書(?)が『勉強の哲学』(文春文庫)だ。
これは著者が「勉強とは何なのか」を説く本だが、そもそも勉強とはどういうことなのかについてあっと驚くような分析がされており、読み進めるうちに勉強のイメージが変わるだろう。そして同時に現代思想入門にもなっているという一石二鳥の本だ。面白い本なので改めて記事にしようと思う。
姉妹編の『メイキング・オブ・勉強の哲学』は著者がメモやアウトライナーを使って執筆を行う過程を具体的に収録したもので、『ライティングの哲学』の実践編としても読める。(そして人の手書きノートを見るのは楽しい)
※追記 同じく千葉雅也による『現代思想入門』の紹介記事も書きました。
そのうち読みたい
本書の著者のうち一人、読書猿が刊行した、独学の方法を網羅した本が『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』(ダイヤモンド社)である。
なんと788ページ。同時期に発売されてよく売れていた同じように分厚い本と合わせて「鈍器本」として有名になった。
といっても通読するための本ではなく、様々な独学の方法を拾い読みできる事典のような本のはずだ。手元に置いておきたいですねえ。



