もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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奈落の新刊チェック 2022年4月 海外文学・SF・ファンタジー・現代思想・歴史・翻訳・ヴェイユ・モノと媒介・絶滅・社会集団・聖遺物・パルクールほか

さて、今月も奈落の新刊チェックです。4月も出るわ出るわ、気になる新刊が。ブログ開設以来早いものでこの新刊チェックも5か月目ですが、まあ飽きるまでは続けようかと思います。では今月もいってみましょう。

 

2004年に『ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレル』がベストセラーとなったファンタジー作家の第二作。広大な館に13人の骸骨とともに住む主人公の物語らしい。訳者の原島文世はダイアナ・ウィン・ジョーンズなどファンタジーを多く手掛ける。

 

こちらも館ものファンタジー。1981年メキシコ生まれカナダ人作家による新世代ゴシック・ホラーで、イギリス郊外の館で起こる怪異。

 

中国の女性SF作家14名の短編を集めたアンソロジー。こういうものが作れるというところに層の厚さが感じられる。編者の橋本輝幸は早川の『2000年代海外SF傑作選』『同2010年代』も編集。編訳の大恵和実は『中国史SF短篇集-移動迷宮』にも参加している。

 

フィッツジェラルドの未完の遺作『ラスト・タイクーン』が村上春樹訳で登場。私はふだんあまり春樹作品は読まないけど春樹訳はやっぱり読みますね。

 

あの「気狂いピエロ」に原作小説があったなんて全く知らなかったが、なぜかこのタイミングでいきなり新潮文庫入り。1961年に邦訳が出ていたらしい同作家の『逃走と死と』はなんとキューブリック現金に体を張れ」の原作とのこと。

 

アンチクリストの誕生』『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』と、近年ちくま文庫で刊行が続いているプラハ生まれのユダヤ人作家ペルッツ(1882-1957)の3冊目。17世紀のパリで宰相リシュリューと町の床屋が対決するらしい。

 

話題となった初の邦訳『掃除婦のための手引き書 ――ルシア・ベルリン作品集』が3月に文庫化したルシア・ベルリンのさらなる作品集が登場。併せてどうぞ。

 

推し、燃ゆ』で旋風を巻き起こした宇佐見りんの、文藝賞受賞によるデビュー作。5月には新作『くるまの娘』も控えてます。

 

なんと、松浦理英子による『たけくらべ』の現代語訳が登場。今こそ読むタイミングかもしれない。他にも「やみ夜」を藤沢周、「うもれ木」を井辻朱美、「わかれ道」を阿部和重が現代語訳したものが収録されいる。(阿部和重??)

 

多彩なジャンルで活躍する津原泰水、その人形堂シリーズ(現在二作目まで)が文庫化。人形修復が題材です。

 

フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』に始まる鏡家サーガ三島賞受賞作『1000の小説とバックベアード』で名を馳せたメフィスト賞作家・佐藤友哉が、アラフォーとなった現在の人生を題材に赤裸々に書いた最新作。すごく気になるけど読むのが怖い。

 

ちくま文庫シェイクスピア全集でおなじみ松岡和子による1993年刊行のエッセイが、全集完結を記念して文庫化。

 

村上春樹の文化的ルーツのひとつを1970年代のアメリカ文学・SFの翻訳文化にあるとし、当時の文化状況を研究したもの。副題に藤本和子の名前があるのはブローティガン読者としては嬉しい。

 

広い範囲を扱うメディア論・文化論の論集。ドイツ人文学においては、文化はモノとしての媒介と密接に結びついたものとして論じられるとのこと。表紙のタイプライターがぐっとくる。

 

ドゥルーズの弟子で、ドゥルーズの死後に出版されたいくつもの論集を編纂したダヴィッド・ラプジャードの著書。「忘れられた美学者」スーリオを引きながら語られる美学/哲学とのこと。同著者はほかに『ドゥルーズ 常軌を逸脱する運動』の邦訳あり。

 

「絶滅」から人間の生について考えるという哲学の本。著者は環境哲学・科学哲学などを専門とし、河本英夫との共著も多い。

 

かの『百科全書』とはどんな本で、それをドニ・ディドロはどのように編集したかについての大著(890ページ)。著者は他にもディドロについての著書があり、サガンなどフランス文学の翻訳も。

 

アーレントの『革命について』と言えばちくま学芸文庫のロングセラーだが、これは同署のみすず書房からの新訳。今回はアーレント自身が英語からドイツ語に翻訳したドイツ語版からの邦訳とのこと。

 

白水社文庫クセジュより。ヴェイユについてはいつかしっかり読みたいと思っています。

 

明治維新前後の日本社会の形成を、副題にあるとおり社会集団と市場との関係の中で分析する。社会の土台が不安定になっていると感じると、もともとそれがどうやって形成されたのかは気になってくる。74年生まれ著者は近世~近代の日本社会について著書多数。岩波新書自由民権運動――〈デモクラシー〉の夢と挫折』。岩波ジュニア新書『生きづらい明治社会――不安と競争の時代』、講談社選書メチエ町村合併から生まれた日本近代 明治の経験』などどれも面白そう。

 

www.suiseisha.net

謎めいたタイトルだが、内容は多岐にわたる分野の二十世紀の造形にまつわる思想を、イタリアの例を中心に集めた論集のようだ。これは著者にとって二冊目の単著だが、前著である『イタリア・ファシズムの芸術政治』はファシズム時代のイタリアにおける芸術と政治の関係を多角的に分析した大変面白い本だった。なお水声社の本はアマゾンでは買えないので他のところで買おう!

 

小川一眞は明治・大正期に皇室から任命された「帝室技芸員」として、当時の日本の姿を記録し続けた写真師にして、日本の写真文化の普及に貢献した技術者だという(旧千円札の夏目漱石の写真も撮影したらしい)。帝国日本をメディアの面から形作った人物の生涯と写真を紹介。

 

「誰も望まなかった戦争」はなぜ起きたのか。著者は第二次大戦前夜の英独における、ごく普通の人々の生活の記録を追う。著者はイギリスの歴史家で、ゲッベルスの日記の編集と英訳も手掛けたという。

 

オリエンタリズム的な興味により完全にイメージだけが独り歩きすることになったイスラム世界のハレムの実際のところが書かれた本。著者は中公新書オスマン帝国-繁栄と衰亡の600年史』など、オスマン帝国を中心にトルコに関する歴史書を刊行している。

 

聖遺物、やっぱり気になりますよね。タイトルはユルめだが、著者は『12世紀の修道院と社会』などの著書もある中世キリスト教の専門家。

 

生前退位宣言から令和改元までの間に起こったことを、SNSにおける言説を軸に分析する表象文化論。確かに天皇(制)について考える際にこの観点はむしろ王道かもしれない。メディアと政治と権威の関係が最も鋭く現れる局面であろう。著者はこれまでも表象の面から天皇を論じてきた。

 

台湾ブームと言われて久しいが、これは日本と台湾の間でサブカルチャーの伝播がいかに行われたかについての本格的な研究書。目次を見るだけでもすごい。

 

なんかすごいアクロバティックなアクションをするということくらいしか知らないパルクールだが、この本はその発祥からいかに現在の姿になり、そして広告的な価値を帯びるまでになったかをエスノグラフィの手法で記述するらしい。著者はアメリカの分文化社会学者。都市論としても面白そう。

 

こちらはSFではなく、岩波科学ライブラリ-だけあって本気で人工冬眠の実現を目指している研究についての本である。冬眠、できるのだろうか……

 

原題「Clothes, Clothes, Clothes. Music, Music, Music. Boys, Boys, Boys.」からの直訳タイトルがすごいが、初の女性パンクバンドとも呼ばれるザ・スリッツのギタリストによる回顧録である。最近の河出の女性パンク関連書ラッシュはすごい。

 

プログレの中でも私にとっては比較的ポップで聴きやすい印象があるカンタベリー・ロックのディスクガイド(単に曲が短いからかもしれない)。ソフト・マシーンとかロバート・ワイアットとかスラップ・ハッピーとかはたまに聴きます。しかし「世界初のディスク・ガイド」と書いてあるのは本当なのだろうか……

 

以上、4月の新刊チェックでした。ではまた来月。