もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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奈落の新刊チェック 2022年5月 海外文学・現代思想・歴史・くるまの娘・リャマサーレス・吸血鬼・黒人神学・フェミニズム・ネオレアリズモほか

5月も終わり、6月が始まりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。梅雨は読書にぴったりなわけですが、だからといってこんなにたくさん面白そうな本が出ても困るわけです。読めるわけがない。でも仮に読めなくても買っておいた方がいいです。本はとりあえず買っておけば、著者にも出版社にも書店にも我々にもメリットがあります。むしろメリットしかないのでは?

というわけで5月前後に刊行された面白そうな本をメモしておきます。

 

 

ハヤカワSFコンテストや創元SF短編賞出身の若手を中心とした23作家による豪華SFアンソロジー。『1984年』から100年後の2084年をテーマにした競作集となっています。これだけいれば新たなお気に入りの作家が見つかるはず……

 

 

推し、燃ゆ』で芥川賞を最年少受賞した宇佐見りんの待望の新作。デビュー作『かか』に続いて、物語はふたたび家族にフォーカスしている。

 

旅する練習』で三島賞を獲っている乗代雄介のガールミーツガール小説とのこと。純文学系作家の本が小学館から出るのは珍しい。

 

近年は宝塚関連小説をいろいろ書いている中山可穂だが、ついにテーマは「ダンシング玉入れ」に……しかもノワール小説らしい。

 

黄色い雨』などで知られるスペインの作家フリオ・リャマサーレスの短編集。ラテンアメリカ文学好きなら死ぬほどお世話になっている木村榮一訳。 

 

早逝の詩人シルヴィア・プラスの、死後50年以上経って発見された未発表短編を中心とした短編集。アメリカ文学好きなら足を向けて寝られない柴田元幸訳。

 

中国系アメリカ人作家イーユン・リーの2020年作。同作者のこれまでの邦訳を全て手掛けている篠森ゆりこ訳。

 

なんと、『吸血鬼ドラキュラ』以前に書かれた吸血鬼小説を10篇集めたアンソロジー。ドラキュラ以前からそんなにたくさんあったんですね……

 

2017年単行本の文庫化。著者のソフィア・サマターはなんとこのデビュー長編で世界幻想文学大賞と英国幻想文学大賞を受賞したらしい。

 

ルイ・マルによる映画が有名な『地下鉄のザジ』や、実験小説(?)『文体練習』で知られるレーモン・クノーの研究書が登場。著者はクノーの翻訳のほか、やはり実験的作家として知られるジョルジュ・ペレックの翻訳もしています。

 

「黒人神学」を説くアメリカの神学者ジェイムズ・H・コーンに師事し、その著書『誰にも言わないと言ったけれど』の翻訳も行った著者による、おそらく初めての黒人神学に関する日本語書籍。キリスト教神学と、アメリカ社会における人種差別の現実の間で思考した神学者の記録。

 

フェミニズムポストコロニアル・アラブ文学を専門とする岡真理の2006年の著書が新装版で登場。第三世界フェミニズムに関する代表的な書籍。同著者には『彼女の「正しい」名前とは何か』も。

 

フェミニズムクィア理論を専門とし、ジュディス・バトラーの翻訳も手掛ける著者によるフェミニズム入門書。表紙には「エッセンシャルワーカーとケア」「オリンピックとセクシズム」「インターセクショナリティ」「Black Lives Matter」などのキーワードが並ぶ。帯コメントは台湾出身の芥川賞作家・李琴峰が寄せている。

 

ジェンダーの観点から歴史学に変革をもたらしたという古典が、三十周年版として二度目の復刊。

 

メディア文化論を専門とする著者による、敗戦後の日本とかつての被支配国の関係についての研究。「ポスト帝国」の連帯はいかにして可能なのか。

 

中島岳志杉田俊介責任編集による、西端100年を迎えた橋川文三論集。橋川文三による論文ベストセレクションも収録。

 

群像評論新人賞出身、93年生まれ著者によるデビュー作。臨床哲学に立脚しつつ、鷲田清一やSEALDsを批評の俎上に乗せる。気になります。

 

刊行点数がすごい仲正昌樹による入門講義シリーズにニーチェが登場。それにしても刊行点数がすごい。

 

檜垣立哉による2000年の単行本が講談社学術文庫入り。私が読んでいる著者のドゥルーズ論も多くベルクソンに依拠しているのでこちらも勉強したいところ。

 

中島隆博による2007年の単行本が増補版として登場。同著者による中公新書中国哲学史』の次に読むのにちょうどいいかも。6月には講談社より『荘子の哲学』も出ます。

 

田中純東京大学出版会の雑誌『UP』に連載していた同名論文を中心としたイメージ論集。『イメージの自然史』『過去に触れる』に続く第三弾。目次を見るだけでクラクラします。

 

西欧のルネサンスを、アジアや新大陸からの、そして「古代」の発見による大量の情報が流入した情報革命の時代ととらえる本。著者は2019年の『ルネサンス庭園の精神史』でサントリー学芸賞を受賞している。

 

東南アジア海域史を専門とする著者による、東南アジア諸国がいかに海を経て行き来する外来者との関係の上に成り立ったかを記述する本。同著者には東南アジアに限らない海域史を扱った『海と陸の織りなす世界史』などもある。

 

我々がイメージする「古都・鎌倉」とは、実は後の時代にどんどん付け加えられた「幻想」の集大成であるという衝撃の一冊。面白そう。著者は鎌倉と中世史に関して著書多数。

 

フランスの植民地統治を専門とする著者による、人種主義・レイシズムの包括的な入門書。大航海時代から現代までをカバー。

 

「国家が拡張をあきらめたとき、 若者はどのように大人になっていくのか」という副題は大変なインパクトだが、これは帝国主義から福祉国家へと変遷していく英国において、若者がどのように成長について考えたのかを古今の文学から探る文芸批評の本。著者はベケットについて何冊か著書がある。

 

アイドル、ジャニーズ、宝塚など、日本人はなぜ未熟さを特徴とする文化を愛するのか、という日本文化論。著者は社会学音楽学が専門で、2015年に『童謡の近代』を刊行している。

 

ご存じ大塚英志による、シン・ゴジラからシン・エヴァンゲリオンを経てウルトラマン仮面ライダーへ至る庵野秀明「シン」シリーズ批評。著者が連綿と続けてきた戦後日本社会批判・「おたく」文化批判の現在地か。

 

日本記号学会編によるアニメ論集。アニメとはそもそも何なのかという原理的なところから現代のアニメのあり方まで押さえたガチな論集のようです。アニメーターへのインタビューもあり。

 

ドローンの哲学』『人体実験の哲学』などの邦訳があるフランスの科学思想史家によるネオリベラリズム批判。訳者の信友建志ネグリやラッツァラートも手掛ける。

 

最近はほとんど年一冊ペースで映画に関する本を出している岡田温司、今回はネオレアリズモです。一体どこまで行くのか。

 

高橋葉介による夢幻紳士、まさかの新作。読んだことない方はとりあえずこちらからどうぞ。『夢幻紳士 幻想篇

 

 

以上、5月の新刊チェックでした。ではまた来月。