さてさて暦ももう9月、夏も終わりでいよいよ読書の秋に突入しつつありますが、新刊攻勢はとどまるところを知らず、欲しいものリストだけが膨張し続ける日々。しかし毎月やっていると本当に日本の出版文化はすごいなと思うわけですが、みんなキツい中でやってるでしょうし、いろいろな方向から支えがないとなあと思う次第です。では8月に出た新刊を見てみましょう。
入手困難だった佐藤亜紀の傑作がめでたく文庫復刊。19世紀ポーランドの片田舎で起こる惨劇とは……? これは傑作なのでみんな読もう。
『現代思想入門』がベストセラーとなっている千葉雅也の初の小説が文庫化。野間文芸新人賞受賞・芥川賞候補作。
夭折した変格ミステリ作家の、没後の2016年に刊行された短編集が文庫化。石動シリーズ好きです。
萩尾望都の永遠の名作『トーマの心臓』の森博嗣による小説版、2009年の刊行から数えてなんと4バージョン目の登場です。
東京創元社からの刊行がなくなった後に、めでたく竹書房で続行中の年刊ベストSFアンソロジー。大森望編。
耽美で幻想的な小説を多く遺した須永朝彦による、平安・鎌倉期の古典幻想文学アンソロジー。同シリーズで『江戸奇談怪談集』も出てます。
マゾヒズムの語源となったザッヘル・マゾッホの代表作が光文社古典新訳文庫で登場。翻訳はクラシックやオペラに関する著書も多い許光俊。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの同名曲も有名ですね。
さらに『眼球譚』と並ぶバタイユの代表作の新訳が月曜社から。翻訳は『「テル・ケル」は何をしたか: アヴァンギャルドの架け橋』などの著書のある阿部静子。
ブッカー賞候補となった、中国出身アメリカ在住作家による小説。ゴールドラッシュ後のアメリカを舞台に書かれた中国系移民の物語とのこと。翻訳は最近面白そうな小説をたくさん手がけている藤井光。
「プレBL」という呼称はなるほどという感じだが、20世紀前半に書かれたBL以前のBLを集成。
オースターの2000年代の中編2篇を合本。翻訳は安心の柴田元幸。
19世紀のコペンハーゲンで殺人事件が発生。容疑者はハンス・クリスチャン・アンデルセン!どういうこと? 翻訳は池畑奈央子。著者はデビュー作『楽園の世捨て人』も翻訳されてます。
トルコのノーベル賞作家パムクによる2008年作が文庫化。翻訳はパムクの翻訳をほとんど手がけ、『物語 イスタンブールの歴史』などの著書もある宮下遼。この小説もイスタンブールを舞台にした恋愛小説のようです。
精神医学の大家・木村敏の1973年の著書が新たに文庫化。これだけ読み継がれている本はそうそうない。ハマスホイの装画も美しい。
『ジェンダー・トラブル』で知られるバトラーの、暴力に関する著書。佐藤嘉幸・清水知子訳。
『資本主義リアリズム』はすごいインパクトがあったマーク・フィッシャーが遺した最終講義を書籍化。原著2020年刊。翻訳はデリダやリー・マッキンタイア『ポストトゥルース』を手掛ける大橋完太郎。
カルチュラル・スタディーズ、メディア論について多くの著書が多ある吉見俊哉による、「空爆」についてのメディア論。ロシアのウクライナ侵攻までをカバーしている。
映画「ブラック・パンサー」の大ヒット時にもよくその単語を聞いた「アフロフューチャリズム」についての概説書がついに登場。著者はシカゴの批評家・映画作家とのこと。サミュエル・ディレイニーやジャネル・モネイのことも書いてあるようで気になります。翻訳は『シスタ・ラップ・バイブル』や『ディアンジェロ』などアメリカのポップカルチャーやブラックミュージックに関する訳書の多い押野素子。
主著『近代の正統性』や隠喩についての研究で知られるドイツの哲学者の初期著作。翻訳はニーチェなども手掛ける村井則夫。
ベンヤミンの翻訳や哲学・科学哲学に関する著作の多い山口裕之による、現在のメディア状況に対する哲学的考察。ここでもベンヤミンの議論が下敷きとなるようだ。
佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』でも描かれたドレスデン爆撃について。著者はこれが初邦訳。訳者はナチスドイツ関連の翻訳が数点ある若林美佐知。
1918年に起こり、帝政ドイツの終焉ももたらしたドイツ革命について。ドイツ史を専門とする著者による、1988年刊行作の文庫化復刊。
ちくま学芸文庫よりヨーロッパの紋章入門が登場。カラー図版もあり。著者はイギリス史や紋章についての著書多数。
エジプトで出土したギリシア語パピルスは古代地中海世界を今日に伝える重要資料だが、その本格的な研究書。著者はパピルス解読の第一人者だそうです。訳者の髙橋亮介はこれが初の訳書らしい。
これはひょっとして、往年の名作コミック『MADARA』の元ネタになった摩多羅神なのか……? 著者は日本の宗教思想史の大家で、特に神仏習合に関する著作が多い。
ではまた来月。