さて今月も月初に昨月分の新刊チェックなわけですが、なんとこの新刊チェックも今回で12回目。というわけでこのブログもめでたく一周年というわけであります。自己満足でやっているブログではあるものの、閲覧数がゼロだったらあまりやる気が出ないと思われますので、みなさま日頃のご愛顧どうもありがとうございます。この新刊チェックもいつまで続けるのかわかりませんが、まあ当面はやります。では11月の新刊です。
16歳になった少女は全員が森のキャンプに送り込まれ、それをサバイブすると決められた男性の妻になれる、という設定のディストピア小説。作者キム・リゲットの小説はこれが5冊目にあたるが初邦訳で、訳者の堀江里美は他にエマ・クライン『ザ・ガールズ』、ケイト・パンクハ-スト『すてきで偉大な女性たちが歴史をつくった』などを手掛ける。
今年のノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの中編二編を収録した文庫が折よく登場。自伝的小説で知られる著者ということだが、「嫉妬」は元恋人が一緒に住むという女性をあらゆる手段で特定する話らしい。「事件」は「あのこと」というタイトルで映画化されており、昨年のベネチア映画祭で金獅子賞を獲っている。
『侍女の物語』でおなじみマーガレット・アトウッドの短編集。原著は1983年発表、日本では1993年に出ていたものが30年ぶりの文庫化。訳者の小川芳範は翻訳家兼ソーシャルワーカーとのこと。
『火星夜想曲』『サイバラバード・デイズ』などの作品がある英国SF作家イアン・マクドナルドの2018年作が登場。古い詩集に挟まれていた手紙の謎を調べるうちに迷宮的な世界に入り込むという話らしい。訳者の下楠昌哉は同作者の各作品の翻訳のほか、東雅夫と組んで『幻想と怪奇の英文学』シリーズを編纂している。
国書刊行会「奇想天外の本棚」シリーズより、ブラックユーモアたっぷりのクライムコメディとのこと。作者のパミラ・ブランチはこれが初邦訳で、1960年代に若くして逝去したが近年再評価が進んでいる作家らしい。訳者の小林晋はレオ・ブルースやマージェリー・アリンガムなど探偵小説の翻訳が多い。
『WATCHMEN ウォッチメン』のアラン・ムーアがクトゥルー神話を題材に描くグラフィック・ノベル「ネオノミコン」シリーズ第二弾。翻訳は同作者の『フロム・ヘル』なども手掛けた柳下毅一郎。
『活きる』『兄弟』などの訳書がある、現代中国を代表する作家と言われる余華の2021年作が早くも邦訳。翻訳はほかに閻連科なども手掛ける飯塚容。
このブログでも『ピエタとトランジ』を紹介した藤野可織の最新作。「きらら」という名を持つ別々の人物たちが登場する連作短編集とのこと。
猛烈な執筆ペースで活躍の場をどんどん広げている斜線堂有紀、その2020年の特殊設定SFミステリが文庫化。2人以上の人を殺すと即座に地獄行きとなる世界で、不可能なはずの連続殺人が起こるという孤島&館もの。
『うつくしい繭』でデビューしたゲンロン大森望SF創作講座出身作家の第三作。抑圧された状況にある二人の女性の物語とのこと。
笠井潔がデビュー作から書き続けている矢吹駆シリーズの2002年作が創元推理文庫から復刊。駆とナディアのおなじみコンビが、エーゲ海のミノタウロス島の館でギリシア神話になぞらえられた連続殺人事件を解決します。
金井美恵子が文章を、金井久美子が絵を担当する姉妹エッセイ第二弾。雑誌「天然生活」の連載をまとめたものです。第一弾はこちら。『たのしい暮しの断片』
吉田健一による読書論と、1970年代に書かれた文芸時評を集めたものが平凡社ライブラリーから。
ドゥルーズが画家フランシス・ベーコンについて論じた大著の新装版(旧版は2016年刊)。翻訳はドゥルーズと言えばの宇野邦一。
福岡市美術館で開催中の、コラージュ作家・岡上淑子と幻想画家・藤野一友の二人展の公式図録。藤野一友の絵はフィリップ・K・ディック『ヴァリス』の表紙で見たことがある人も多いのでは。
バタイユの翻訳やシュルレアリスム関連の著書で知られる酒井健による本格モーツァルト論。
廣松、大森、田辺から中井久夫、木村敏、吉本隆明まで、近代日本の思想を「技術・科学・生命」という観点で総ざらいした大著。それにしても檜垣立哉は6月にも『バロックの哲学』を出しているし、共著などもいろいろあって仕事量がすごい。
マルセル・モース『贈与論』の訳者その人である森山工による本格モース論。なお著者は昨年にもモース論『贈与と聖物: マルセル・モース「贈与論」とマダガスカルの社会的実践』を出しています。
吉川浩満による進化論講義、2018年の単行本を増補文庫化。稲葉振一郎、大澤真幸、橘玲、千葉雅也、山本貴光との対談・鼎談も収録という豪華仕様。
病気や医療の観点からの人類学的研究で知られる波平恵美子の1984年のデビュー作が文庫化。「医療人類学」の先駆的名著と言われる本。
19世紀から現在に至るまでの証言から、英国社会の特徴とされた「社会的流動性」の実像を探る。著者セリーナ・トッドは他に『ザ・ピープル――イギリス労働者階級の盛衰』の邦訳あり。訳者の近藤康裕には『読むことの系譜学 ロレンス、ウィリアムズ、レッシング、ファウルズ』の著書もあり。
映画史研究者の鷲谷花による初の単著である、フェミニズム映画批評。著者はジル・ルポール『ワンダーウーマンの秘密の歴史』の翻訳も手掛ける。
ベストセラーとなった『有職装束大全』のシリーズから植物編が登場。古来からの日本の文献や絵巻に登場する植物がこれ一冊に。
五十嵐太郎による、通常の建築史からは除外された近代日本の宗教建築の研究が増補版で。原著2001年。
古代ケルト史を専門とする著者による初の著書。我々の持つケルトのイメージと、その実像はわりと違うそうです。
タイトルと目次からはよくわからないのだが、どうもニューヨーク・パンクから80年代くらいまでのUSロックを中心に、その後の「US型ニュー・スタンダード・ロック」まで網羅したディスクガイドらしい。とりあえずトーキング・ヘッズの表紙はかっこいいですね。
ではまた来月。