もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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奈落の新刊チェック 2022年12月 海外文学・SF・現代思想・首里の馬・フラヌール・ゲシタルト・絶縁・構造と自然・アーレント・綿の帝国ほか

あけましておめでとうございます。今年も弊ブログをよろしくお願いいたします。さて新年ではありますが、昨年12月の面白そうな新刊チェックから始めたいと思います。旧年中のものどもがまだ我らを離してはくれないというわけです。ではいってみましょう。

 

沖縄を舞台にした、高山羽根子芥川賞受賞作が文庫化。高山羽根子の小説についてはこちらの過去記事などもどうぞ。

 

創元SF短編賞で2011年にデビュー後コンスタントに新作を刊行している松崎有理の最新SF短編集。

 

ゴシック論集『ゴシックハート』が先日文庫化されたばかりの高原英里による、こちらは小説新刊。詩歌をめぐる連作短編集。最近出た西尾維新の『怪盗フラヌールの巡回』との混同にご注意ください。

 

ニューウェーブSFを日本に紹介した「NW-SF」誌の創刊編集長、さらにサンリオSF文庫の監修者としても知られるSF作家が遺した唯一の長編が復刊。

 

筒井康隆の2015年作が文庫化。あらすじをちらっと読んだけど何の話かまったく分からないので実際に読むしかない。

 

中原中也賞受賞詩人による初の小説が文庫化。11月に出た『この世の喜びよ』は芥川賞候補になっています。

 

韓国のSF作家チョン・セラン(『フィフティ・ピ-プル』など)が呼びかけ人となり、アジア9都市の作家が「絶縁」というテーマで競作した野心的なアンソロジー。日本から村田沙耶香、中国から「折りたたみ北京」のハオ・ジンファンなど参加。

 

ューウェーブSFを代表する作家のひとりトマス・ディッシュによる書評・エッセイ集が国書刊行会から登場。目次を見るだけで興奮します。同作者の短編集『アジアの岸辺』はお勧め。

 

SF翻訳家・伊藤典夫が編纂し1975年に刊行されたSFとファンタジーショートショート集が文庫で復刊。

 

なんと岡本綺堂みずからが編纂・翻訳した世界の名作怪談アンソロジーが文庫で復刊。河出文庫では三度目の刊行になるようです。

 

2000年にジョン・キューザック主演で映画化された、冴えないレコード店主を主人公とした音楽オタク小説が復刊(旧版は1999年の新潮文庫)。作者のニック・ホーンビィには他にも『アバウト・ア・ボーイ』などの映画化作がある。訳者の森田義信は最近だとピート・タウンゼントの自伝やジーン・シモンズの著書も訳している。

 

漱石の専門家で小森陽一との共著も多い石原千秋の編集による2014年の論集が文庫化。『こころ』、読み返すか~。

 

2001年に刊行されていた、アガンベンの最初期の邦訳書にして代表作のひとつが新装版で登場。それにしても日本語でのアガンベンの刊行ペースがすごい。

 

非有の思惟: シェリング哲学の本質と生成』『述語づけと発生』などシェリングの研究書を刊行している浅沼光樹による、メイヤスーやブラシエらの思弁的実在論への応答を含む現代思想の本。

 

タイトルもキャッチコピーも強烈なニーチェ本が書肆心水から登場。著者のジェフ・ウェイトはこれが初の邦訳だが、哲学・芸術・現代思想を専門としており他にもニーチェハイデガー等についての著作があるようだ。訳者の福井和美はアルチュセールレヴィ=ストロースなども手掛ける。

 

哲学と人類学という、関わりの深い二分野の交錯についての論集が登場。檜垣立哉・山崎吾郎による編著となっているが、この二人はまさに両分野が交わる一冊であるエドゥアルド・ヴィヴェイロス=デ=カストロの『食人の形而上学: ポスト構造主義的人類学への道』を共訳している。いわゆる「人類学の存在論的転回」のガイドとしても良さそう。

 

崇高のリミナリティ

崇高のリミナリティ

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崇高の修辞学』『美学のプラクティス』などの著書がある気鋭の著者、星野太による現代美学の入門書。5つの対談とブックガイドも収録。

 

文芸批評の大家ポール・ド=マンの主著がなんと文庫に!(569ページ) 2012年に岩波書店から出ていたものの文庫化。訳者の土田知則は他にデリダの翻訳も手掛け、また『現代思想のなかのプルースト』『ポール・ド・マンの戦争』『『星の王子さま』再読』など著書多数。

 

ちくま新書ミシェル・フーコー』や『統治の抗争史』『フーコーの風向き: 近代国家の系譜学』など特にフーコー関連書で知られる重田園江による、アーレントウクライナ戦争を題材とした、ポスト・トゥルース状況に関する新著。

 

こちらもアーレント。『革命論』の訳者である著者自身による詳細な解説書。最近アーレントの本たくさん出ますね。

 

「綿の歴史は資本主義の歴史であり、常に暴力と強制を伴っていた――」という惹句が全てを物語っている。経済史・政治史専門の著者の初の邦訳書で、訳者の鬼澤忍はマイケル・サンデルを始めとした社会政治関連の翻訳書多数。

 

科学と哲学の間でジャンル分けの難しい(=面白そうな)本を多数書いている郡司ペギオ幸夫によるまたもや挑発的なタイトルの新刊。

 

ジークフリート・クラカウアーによる映画批評理論の古典の初訳。訳者の竹峰義和はメニングハウスやアドルノの翻訳も手掛け、『〈救済〉のメーディウム: ベンヤミン、アドルノ、クルーゲ』などの著書もあり。

 

写真批評家、伊藤俊治による古典に描き下ろしを加えた増補版。著者の近著は『陶酔映像論』など。訳書の『フリークス ―秘められた自己の神話とイメージ― 』も新装版で出てます。

 

私もタイトルだけは知っている美食の名著『美味礼讃』の入門書が文庫化。1989年に岩波書店から出ていたもので、著者は辻料理専門学校の辻静雄

 

日本刀以前の古代の刀剣を専門的に取り扱う、さすが吉川弘文館という感じの本。著者は考古学が専門でこれが初の著書のようです。

 

エクスナレッジより、多数の独立系書店の間取り・陳列・レイアウトを収録した本が登場。書店好きはこれだけで無限に楽しめる。

 

ではまた来月。