もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

,

奈落の新刊チェック 2023年2月 海外文学・SF・現代思想・ソローキン・ガーンズバック変換・バートルビー・ゴダール革命・食客論ほか

2023年2月も終わり、今年ももう16.7%が終了しましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。考えてみれば21世紀も22%は過ぎたのだなと思いますが、そんなことを考えているうちにも新刊はどんどん出てきますね。今月も2月分の新刊チェックを行ってみましょう。

 

グロテスクなロシア文豪のクローンたちが執筆すると世界が変革される怪作SF『青い脂』でおなじみソローキンの過去作が二十数年ぶりにめでたく復刊。『愛』は光文社古典新訳文庫で『カラマーゾフの兄弟』をベストセラーにした亀山郁夫、『ロマン』は同文庫でトルストイを手掛ける望月哲男がそれぞれ翻訳。

 

2018年の第一弾『チェコSF短編小説集』につづく第二弾。1980年代に学生たちの動きで生まれた「カレル・チャペック賞」に集った作家たちの作品を集めたものとのこと。編訳の平野清美はボフミル・フラバルや神学者フロマートカの翻訳も手掛ける。

 

種村季弘が吸血鬼小説を集めた問答無用のアンソロジー(1986年刊)が新装復刊。

 

北京生まれで金沢在住のミステリ/SF作家、陸秋槎によるSF短編集。同作者の学園ミステリ『雪が白いとき、かつそのときに限り』は面白かったです。阿井幸作・稲村文吾・大久保洋子

 

世界中で韓国文学ブームを生み出した一冊が待望の文庫化。訳者の斎藤真理子も大活躍で、昨年は単著『韓国文学の中心にあるもの』も出てます。

 

同じく斎藤真理子訳の文庫をもう一冊。アジア初のブッカー国際賞受賞者ハン・ガンの作品。

 

カフェでのゆるいダンスシーンが有名なゴダール映画の原作が新潮文庫から登場。『気狂いピエロ』といい、ゴダール映画の原作刊行ブームが来ているようです。作者はテキサス出身のミステリ作家だそうです。翻訳はミステリから科学ノンフィクションまで手掛ける矢口誠。

 

阿部和重の長大な「神町サーガ」三部作の三作目が文庫化。今回は作者と同名の主人公が幼稚園児の息子を連れながら国際的陰謀に巻き込まれる子連れスパイアクションになっております。『シンセミア』『ピストルズ』と合わせて読もう。

 

みんな大好き夢野久作の短編集。「怪奇」だけじゃなく「暗黒」がタイトルに入ってるところがわかりやすくて良いですね。

 

アウシュヴィッツの残りのもの』に続き、アガンベンの過去作が新装版で登場。メルヴィルの短編小説「バートルビー」の何もしない主人公にアガンベン哲学の根本が託されます。「バートルビー」本編も併録の親切仕様。アガンベンの翻訳を多く手掛ける訳者の高桑和巳は去年『哲学で抵抗する』という新書を出してます。

 

タイトルが実に明確だが、暴力を正当化するものとしての法と国家、それ自体の正当性についての議論の歴史。著者は法思想史が専門で、同様のテーマを扱った『主権論史 ローマ法再発見から近代日本へ』や、他にルジャンドルの翻訳なども。

 

ご存じ岡田先生の美術史新書シリーズ、今回は反戦がテーマです。岡田温司の著作リストはこちら。

こんなに出てるの!? 岡田温司著作リスト 表象文化論・芸術・イタリア現代思想 - もう本でも読むしかない

 

東京を、徳川家康薩長軍、そしてアメリカによって何度も占領されてきた「敗者」として捉える。著者は社会学や文化論で多数の著書のある吉見俊哉

 

こちらは近代の東京、それも、かつて海軍飛行場が、戦後には自衛隊駐屯地が誘致された「軍都」霞ヶ浦に限定した歴史の本。著者は2022年に『「予科練」戦友会の社会学ー戦争の記憶のかたち』も出している。

 

ロマノフ王朝の女帝アンナの時代、ロシアは西欧からの文化をさかんに取り入れたという。この本では「ルボーク」と呼ばれる大衆版画からそれを読み解く。著者は2006年には『ルボーク―ロシアの民衆版画』も刊行。ほかロシア関連の翻訳も。

 

もともと舞台台本だったシェイクスピア作品の、他メディアへの翻案を専門に扱う本。『批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖講義』『小説読解入門-『ミドルマーチ』教養講義』などの廣野由美子と、シェイクスピア関連の論集に多く文章を寄せている桑山智成の共著。

 

蓮實重彦の2005年の論集が増補決定版として文庫化。この人の文章はやっぱり時々読みたくなります。

 

映画批評の大御所からもう一冊。こちらは映画と人生を振り返ったエッセイのようです。

 

各方面で活躍する精神科医斎藤環による、精神分析の観点からの映画論集。なんと130本もの文章が収録されているようです。

 

アメリカにおけるラジオの誕生にともなう社会の変容を分析した1993年の本が文庫で復刊。著者はメディア論についての著書が多くあり、現在は日英2言語による雑誌『5:Designing Media Ecology』の編集長を務める。

 

こちらはメディア環境の物質的な側面に注目し、地球規模での物質の流れからメディアの問題を考える本のようです。著者はデンマークオーフス大学教授でメディア理論が専門。訳者の太田純貴もメディア論・美学関連の翻訳が多い。

 

幸福の追求: ハリウッドの再婚喜劇』に続き、現代アメリカ哲学の大家による、ウィトゲンシュタインの哲学をベースにした古典ハリウッド映画論が邦訳。訳者の中川雄一もウィトゲンシュタイン関連の翻訳多数。

 

崇高の修辞学』『崇高のリミナリティ』など美学の本を続けて刊行していた気鋭の著者の新刊はなんと「食客論」。さまざまな思想家や作家のテキストに現れる「食客」を分析した本、なのか……?

 

世界的に読まれているという谷崎の『陰翳礼讃』、この本を中心とした文化のネットワークを描きだす大著。著者は近現代日本文学が専門で、共著に『共同研究 上海の日本人社会とメディア 1870-1945』などがある。

 

中国の河南省にあるという猿回し発祥の村に住む人々を20年に亘って追ったノンフィクション。著者は同じく河南省生まれの写真記者。翻訳者の永野智子はこれが初の訳書のようです。

 

ミュージシャンかつ文筆家の近田春夫によるグループサウンズ史。GSはビートルズの影響下にあったという常識を覆すところから始めるそうだ。それにしても書籍紹介の末尾にある「本書は、何年かに一度はやってくるGSブームの火付け役になるであろう。」という一文には笑ってしまう。

 

永遠の名作『トーマの心臓』を雑誌掲載時と同じB5判、カラーページも収録して刊行。スピンオフ「訪問者」「湖畔にて」も併録。買うしかない。

 

 

ではまた来月。