もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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奈落の新刊チェック 2023年4月 海外文学・SF・現代思想・歴史・NOVA・回樹・非有機的生・バタイユ・旋回する人類学ほか

4月も早々と終わりまして世はゴールデンウィークに突入。連休の方もそうでない方もいらっしゃるでしょうが、連休の方はもう、本でも読むしかないですよね。本はコスパもタイパも良く、自分を成長させてくれ、新たな発見があり、伝統的かつ権威的で、また時に権力でもあり、はたまた自分を視野狭窄に閉じ込めることもあり、さらには時間と金の浪費にもなりかねない……

何の話をしているのか忘れましたが4月分の新刊チェックです。

 

大森望責任編集のSFアンソロジーシリーズの最新号は、なんと日本SF史上初の、女性作家のみによるアンソロジーに。今回の企画には『中国女性SF作家アンソロジー-走る赤』の影響もあるとのこと。

 

待望の、斜線堂有紀の初のSF短編集。既発・書き下ろし含む全6篇。表紙イラストは宇佐崎しろ。ここにも入っている「BTTF葬送」はアンソロジーで読みましたが傑作でした。

 

2013年に邦訳が刊行され、大きな話題を呼んだ小説が文庫化。ナチのユダヤ人虐殺の責任者と、彼の暗殺者の物語。著者はこの小説でゴンクール賞最優秀新人賞を受賞。翻訳はフィリップ・クローデルパスカルキニャールを多く手掛ける高橋啓

 

ガーナ出身の両親のもとにロンドンで生まれ、ドイツ語で執筆する作者による初の邦訳。訳者はW.G.ゼ-バルトの翻訳で知られるの鈴木仁子。

 

ノーベル文学賞を受賞したオーストリアの作家・劇作家ハントケの古典が新訳で登場。カスパー・ハウザーを題材とした戯曲です。

 

ヴィルヌーヴ監督による映画が大ヒットした『デューン』の原作続編が新訳で登場。新訳シリーズを翻訳している酒井昭伸ジョージ・R・R・マーティンの「ゲーム・オブ・スローンズ」原作シリーズも手掛けています。

 

ナボコフジーン・ウルフなど、現代文学やSFの翻訳で知られつつ、実は著名な詰将棋・チェスプログラム作者でもある若島正。こちらは詰将棋にまつわるエッセイ集で、1988年に刊行されたものの文庫化。

 

アムステルダム大学の社会学教授による、現代アートの価格、その「象徴的意味」についての本。翻訳者はこれが初の訳書のようだが、本人も中国の現代アートの研究者のようです。

 

國分功一郎がコロナ危機の中で行った、二つの講演を書籍化したもの。「シリーズ哲学講話」とあるのでシリーズ化するっぽい。ベストセラー『暇と退屈の倫理学』の続編的な内容でもあるそうです。

 

5人の専門家による、デリダの代表作の「差延」の安価な入門書が登場。若手のデリダ研究者・森脇透青の発表が中心になっている模様。出版社サイトに「最もわかりやすいデリダ入門」って書いてありますよ!

 

ドゥルーズの翻訳などで知られる宇野邦一が、自らの哲学を「非有機的生」というキーワードで集大成した一冊。しかも表紙はマルセル・デュシャン。気になります。

 

バタイユについての大ボリュームの論集。編著者はバタイユを専門とする岩野卓司と、サルトル関連の著作が多い澤田直。最近バタイユ関係の新刊が多いですね。

 

うしろめたさの人類学』『くらしのアナキズム』など話題作の多い松村圭一郎による、変遷し続ける文化人類学の最新入門書。

 

災害ユートピア』や、最近では『説教したがる男たち』が有名なレベッカ・ソルニットの2005年の本が文庫化。困難な時代に希望を持つことについて。

 

2012年の筑摩選書の改定新版。「聖書学の成果に「男はつらいよ」の精緻な読みこみを重ね合わせ、現代に求められている聖なる無用性の根源に迫る」。神父で神学者の著者は『寅さんの神学』も出してます。

 

2002年刊行のイギリスの社会学者による「階級」についての入門書が文庫化。原著1993年。訳者の橋本健二は『新・日本の階級社会』『〈格差〉と〈階級〉の戦後史』『中流崩壊』など階級・格差社会について著書多数。

 

デヴィッド・グレ-バ-の翻訳や自由論・アナキズム論で知られる酒井隆史による、挑戦的な知識人批判。著者近刊に『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』『完全版 自由論: 現在性の系譜学』など。

 

わかるようでわからない「主権」概念を改めて掘り下げる。著者は憲法学が専門で、近著に『プレステップ憲法 第3版』、編著に『Liberty 2.0-自由論のバージョン・アップはありうるのか?』など。

 

明治に設立され、戦後に国会図書館に統合された「帝国図書館」の80年の歴史。著者は国立国会図書館の司書で、著作に『〈憧憬〉の明治精神史 高山樗牛・姉崎嘲風の時代』がある。

 

ウルクからローマ、ロンドン・パリ・NYを経てラゴスまで、大都市で辿る世界史。著者はイギリスの歴史家でこれが初邦訳。訳者の森夏樹は歴史関連で訳書多数。

 

 

honto.jp

ソ連時代のイデオロギーと科学の関係についての論集。編者の金山浩司は『神なき国の科学思想 ソヴィエト連邦における物理学哲学論争』という本も書いている。

 

2019年の単行本の文庫化。100年以上の時間をかけて2013年にイギリスで完成した、中世ラテン語辞書についてのノンフィクション。著者は評伝・ノンフィクションを多く手掛け近著に『踊る菩薩 ストリッパー・一条さゆりとその時代』『十六歳のモーツァルト 天才作曲家・加藤旭が遺したもの』など。

 

ペルシア神話をまとめた一冊がちくま学芸文庫で登場。著者の岡田恵美子はベルシア文学が専門で、ペルシア文学・イラン関連書のほかペルシア語テキストも執筆。『イラン人の心―詩の国に愛を込めて』『聴いて、話すための ペルシャ語基本単語2000』など。

 

批評理論の本格的な入門書。著者の小倉孝誠はフランス文学が専門で、ゾラやアラン・コルバンの翻訳も手掛ける。近著に『歴史をどう語るか: 近現代フランス、文学と歴史学の対話

 

「Wired」の編集者でもあるジャーナリストによる、アセクシュアルについての包括的なルポが邦訳。訳者の羽生有希はフェミニズムクィア理論が専門でこれが初の単訳書。同テーマの既刊に2019年の『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて――誰にも性的魅力を感じない私たちについて』がある。

 

杉浦康平が装丁を手掛けた本を読んだことがある人は多いはず。デザイン論、メディア論、記号論を専門とする著者がその後世に与えた影響を探る。

 

ハリウッド黄金期の女優ルイズ・ブルックスの1982年の自伝が邦訳。訳者の宮本高晴は映画関係の訳書が多い。

 

ele-king編集部よりイタリアンホラーの名匠についての決定版書籍が登場。目玉記事はなんと吉本ばななインタビュー。

 

『痴人の愛』を歩く』や『吉田健一ふたたび』(共著)などを書いている樫原辰郎による、科学と歴史の知見からのロック文化の考察。

 

 

ではまた来月。