もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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奈落の新刊チェック 2023年11月 海外文学・SF・現代思想・歴史・赦しへの四つの道・孔雀屋敷・ジュリアン・バトラー・言葉の風景・とるにたらない美術・四つの未来ほか

早いものでもう年の瀬ですが、早いといえばこの12月で当ブログももう開設2周年でした。どうにか細々と続けております。日頃のご愛顧のほど誠にありがとうございます。まだしばらくは趣味として続けていければと思います。

それでは11月の気になる新刊から。

 

 

村上春樹訳によるフィッツジェラルドの短編傑作選が中公文庫より登場。
春樹ふくむフィッツジェラルドの翻訳については当ブログの人気記事であるこちらをどうぞ。

『グレート・ギャツビー』冒頭の翻訳3種類を比べてみた 野崎孝・小川高義・村上春樹訳 - もう本でも読むしかない

 

かの名作『闇の左手』と同じ「ハイニッシュ・ユニバース」を舞台とした物語4編を収めるル・グウィンローカス賞受賞作。1994年発表。アシモフ、ディック、ハインラインからキングやクリスティまで手掛けるベテランによる初訳。

 

1939年発表のフォークナーの代表作のひとつが文庫復刊。訳者はフォークナーのほか、モーム、トウェイン、クリスティなど王道の英米文学を手掛ける。

 

伝説の古書の発見にまつわるベストセラーミステリの復刊。武田ランダムハウスジャパンから刊行されていた単行本は2010年に第2回翻訳ミステリー大賞を受賞している。訳者はロマンス小説の翻訳が多い。

 

吉田健一ふたたび』『吉田健一に就て』などの編著書のある文芸評論家・川本直のデビュー小説にして読売文学賞を受賞した話題作が文庫化。表紙は宇野亞喜良

 

開かせていただき光栄です』『アルモニカ・ディアボリカ』に連なる皆川博子の歴史ミステリ・シリーズ最終作。舞台は独立戦争中のアメリカ。

 

江戸川乱歩が激賞したという、19世紀インド生まれ英国育ちのミステリ作家の傑作集。長編『赤毛のレドメイン家』も出てます。訳者は他にも英米ミステリの翻訳多数。

 

斜線堂有紀をはじめとした6名による、その名の通り、Twitterの終了にまつわる小説集。斜線堂有紀の小説はTwtterでしか繋がっていなかった探偵と助手の話だそうです。

 

『ドラキュラ』の根底には、ヴィクトリア朝における外国恐怖があるという研究。1997年に東京大学出版会から刊行された本の文庫化です。著者はウルフ『ダロウェイ夫人』の翻訳を手掛け、また編著に『二〇世紀「英国」小説の展開』『文学批評への招待』などがある。

 

吉田健一の文学論や文章論を集めたエッセイ集が平凡社ライブラリーより。

 

国書刊行会定本久生十蘭全集』の編者である著者による、久生十蘭についてのエッセイ集。1994年に刊行された『久生十蘭』の増補改訂版とのこと。

 

話題作『言葉の展望台』の続編となる、三木那由他言語哲学エッセイ。

 

著者が偶然知ったジネヴラ・ボンピアーニという人物について調べるうちに、20世紀イタリアにおける文学的な交流が浮かび上がってくるという本。著者はこの本がデビュー作のイタリア文学研究者。

 

動物にまつわるデリダの「伝説的な」講演録が文庫化(単行本は2014年)。翻訳はデリダと言えばの鵜飼哲

 

自身もアーティストである著者による、「ラッセン、心霊写真、レンダリング・ポルノ」という副題からしてぐっと摑まれる美術論集。このあと『評伝クリスチャン・ラッセン 日本に愛された画家』を刊行予定。

 

19世紀英国における識字率上昇に際しての社会の変化を分析した古典が文庫で復刊。訳者には入手困難だが『「読者」の誕生―活字文化はどのようにして定着したか』『メディアの現在形』などの著書あり。

 

精読 アレント『全体主義の起源』』『精読 アレント『人間の条件』』『今を生きる思想 ハンナ・アレント 全体主義という悪夢』など近年アレント本を出しまくっている牧野雅彦によるまとめの新著。

 

柄谷行人の2014年の単行本が文庫化。

 

ポスト資本主義を思考するための四種の社会の形について。翻訳は『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』『負債論 貨幣と暴力の5000年』などグレーバーの翻訳で知られる酒井隆史。訳者近著に『賢人と奴隷とバカ』『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』など。

 

戦争裁判を主題とした小説を取り上げ、「文学は戦争を抑止するために何ができるのか」という問いについて考える新書。著者は近代文学研究者で、近著に『小説と〈歴史的時間〉』、編著に『「言論統制」の近代を問いなおす 検閲が文学と出版にもたらしたもの』など。

 

くらしのアナキズム』『小さき者たちの』『旋回する人類学』など次々と著書を刊行している    松村圭一郎の2008年のデビュー作が文庫化。

 

イタリア思想の紹介・翻訳の第一人者である上村忠男によるカルロ・ギンズブルグ論。著者近著に『独学の思想』『アガンベン 《ホモ・サケル》の思想』、近訳書にギンズブルグ『どの島も孤島ではない――イギリス文学瞥見アガンベンカルマン――行為と罪過と身振りについて』など。

 

2005年に刊行された萱野稔人による国家論・暴力論の定番書が文庫化。著者近著には『人間とは何か?』『名著ではじめる哲学入門』など。

 

台湾の歴史・文学研究者による、台湾のナショナリズム発生の研究。著者にはすでに『コレクション・台湾のモダニズム 第1巻 台湾総督府の植民地統治』『台湾、あるいは孤立無援の島の思想』の邦訳がある。訳者近著に『アポリアとしての和解と正義――歴史・理論・構想』『初期社会主義の地形学(トポグラフィー) 大杉栄とその時代』など。

 

すでに『あぶない法哲学 常識に盾突く思考のレッスン』という新書を刊行している著者による、こちらも法哲学の入門書。

 

1982年の邦訳刊行以降何度も復刊しているイヴァン・イリイチの古典が岩波文庫入り。初訳から手がける訳者はイリイチの他にカール・ポランニーなども手掛ける。

 

ブルックリンで起こったことを題材にしたジェントリフィケーション批判。著者近著に『排除と抵抗の郊外 フランス〈移民〉集住地域の形成と変容』、編著に『移民現象の新展開』など。

 

様々なイデオロギーの受け皿となる「家庭」という概念の歴史を追う新書。著者は家族社会学が専門で著書に『家族情緒の歴史社会学』がある。

 

DVなど暴力的な関係から逃れられない人には何が起こっているのか、またその語りに第三者はどのように応じられるのか、についての論考。著者は臨床哲学倫理学が専門で、著書に『共依存の倫理―必要とされることを渇望する人びと―』、編著に『狂気な倫理――「愚か」で「不可解」で「無価値」とされる生の肯定』、訳書にギリガン『抵抗への参加──フェミニストのケアの倫理──』がある。

 

歌うカタツムリ-進化とらせんの物語』などで知られる進化生物学者による、ダーウィン通俗的理解への批判の書。著者近刊は他に『招かれた天敵――生物多様性が生んだ夢と罠』『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』など。

 

国立科学博物館に所蔵された標本のかずかずをフルカラーで紹介。日本の生物多様性にまつわるものがセレクトされているとのこと。

 

ではまた来月。