もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

J.G.バラードの不毛の癒し 『ミレニアム・ピープル』ほか

J.G.バラードは何も信じてないから信用できる イギリスのニュー・ウェーブSFを代表する作家とよく言われるジェームス・グレーアム・バラードことJ.G.バラードは私の一番好きな小説家の一人なのだが、どこが好きかと言われると説明しづらい。 SF作家ではある…

近藤信輔『忍者と極道』が暗示する私たちの見えない戦争

笑いのリアリティとモラル 忍者と極道(1) (コミックDAYSコミックス) 作者:近藤信輔 講談社 Amazon 近藤信輔『忍者と極道』(コミックDAYSコミックス)は例えば喋る生首や面白いフリガナで有名で、実際にすごく笑えるんだけど、同時にシリアスな漫画で…

高村峰生『接続された身体のメランコリー』 我々は何かを失ったが、何を失ったのかわからない。

批評を読む楽しみ 英米文学や表象文化論を専門とする高村峰生による、英米の小説・映画・音楽についての批評集がこの『接続された身体のメランコリー 〈フェイク〉と〈喪失〉の21世紀英米文化』(青土社)だ。 接続された身体のメランコリー: 〈フェイク〉…

黒沢清『スパイの妻』「カメラに映っていない場所では、何が起きていてもおかしくない」という緊張感。

スパイの妻<劇場版> 蒼井優 Amazon 黒沢清は私が一番好きな映画監督の一人だが、今のところ最新作である『スパイの妻』は中でも特にお勧めしやすいもののひとつかもしれない。 (※ネタバレは序盤まで) 舞台は1940年の神戸。太平洋戦争の開戦が徐々に近づ…

台湾日記:中山北路をYOUバイクで下る

台北の街角にはYOUバイクというレンタル自転車のスタンドがあちこちに設置されており、携帯電話の番号で登録すれば、交通機関用のプリペイドカードで利用できる。ある場所のスタンドで借り、別のスタンドで返せばいい。スタンドの場所は専用のアプリでも調べ…

『超人X』『東京喰種』 石田スイが描く生命の不可逆的な変化

石田スイは肉体の変形を描く 『東京喰種』の石田スイの新作、『超人X』(ヤングジャンプコミックス)が1・2巻同時発売したのでさっそく買った。 超人X 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) 作者:石田スイ 集英社 Amazon 超人X 2 (ヤングジャンプコミックスD…

高山羽根子『暗闇にレンズ』を読んで震えあがった。

女性たちの偽史SF 高山羽根子という作家の名前はSF方面でちょくちょく目にしていて、読んでみたいなーと思っているうちに時は過ぎゆき(最近は少し油断するとすぐに5年くらい経つ)、そうこうしているうちに芥川賞を受賞し、前後してこの『暗闇にレンズ』(…

千葉雅也・山内朋樹・読書猿・瀬下翔太『ライティングの哲学』は、「クォリティを諦めろ」と力強く背中を押す。

この本のおかげでブログを始められました。 千葉雅也・山内朋樹・読書猿・瀬下翔太による『ライティングの哲学』(星海社新書)。 執筆の悩みを抱えた四人の著者が何とかして書けるようになる方法を切実に模索した本だが、何を隠そう私がこのブログを立ち上…

『呪術廻戦0』再読 「里香ちゃん」はなぜすでに死んでいるのか、あるいは少年バトル漫画の原罪

呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校 (ジャンプコミックスDIGITAL) 作者:芥見下々 集英社 Amazon 呪術廻戦の新しさは語りづらい 映画公開をきっかけに芥見下々『呪術廻戦』第0巻を再読してみた。 この漫画の新しさというのはけっこう説明がしづらくて、少…

奈落の新刊チェック 2021年12月 海外文学・現代思想・歴史・芸術・韓国SF・きのこ文学・装飾と犯罪・X線・忍者・ゼウスほか

気になる、面白そうな、読みたい本が無数に刊行されるのに対し、実際に読める本のなんと少ないことか……そんな悲しみに枕を濡らす日々であるが、せめて他の誰かが読んでくれれば少しは報われるのではないだろうか。そうでもないだろうか。 そんなわけで、2021…

寅年なのでボルヘス「Dreamtigers──夢の虎」を読もう

虎と言えばやっぱりボルヘス! 新年あけましておめでとうございます。寅年ですね。 虎と聞いて真っ先に思い出す文学者と言えば、虎が大好きなアルゼンチンの巨匠、ホルヘ・ルイス・ボルヘスです。膨大な知識と緻密で複雑な構成による短編作家として有名なボ…