もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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ゴシック/ゴス

どれから読む?稲垣足穂・文庫ガイド──『一千一秒物語』『天体嗜好症』『少年愛の美学』

稲垣足穂の各社文庫の収録作を紹介 稲垣足穂と言えば、『一千一秒物語』でおなじみ大正から昭和初期の文学者、天体と飛行と無機物に憧れるモダニスト、横光利一や初期の川端康成と並ぶ新感覚派の一員、「A感覚とV感覚」を発表した独自のエロティシズムの研究…

小川洋子の短編の後ろめたい楽しみ 『薬指の標本』ほか

静謐で幻想的な短編集 薬指の標本(新潮文庫) 作者:小川洋子 新潮社 Amazon ※今回は本の紹介というよりも、かなり個人的な楽しみについてのエッセイのような文章です。 これで小川洋子に関する記事を書くのは二本目だが、正直いって私は、この作家がどうい…

岡田温司『キリストの身体』 聖なる「身体」が導く美と政治

キリストの「身体」を読み解く表象文化論 キリストの身体―血と肉と愛の傷 (中公新書) 作者:岡田 温司 中央公論新社 Amazon 岡田温司についてはこのブログでも何度か紹介しているので重複になるかもしれないが、この著者には大きく分けて二種類の著作群がある…

小川洋子『寡黙な死骸 みだらな弔い』 静かな死の気配と、冷たく湿った情緒

初期に発表された連作短編集 寡黙な死骸 みだらな弔い (中公文庫) 作者:小川 洋子 中央公論新社 Amazon ずっと気になってはいるものの読んだことのない作家、というのは無数にいるわけで、私にとってそのような作家のひとりが小川洋子であったのだが、このた…

アニメ『デビルマン クライベイビー』 静かに研ぎ澄まされた激しさの表現

『デビルマン』原作への忠実さと現代的アレンジを両立したNETFLIXアニメ (中盤くらいまでのネタバレがあります) 湯浅政明監督・サイエンスSARU制作によるアニメ『デビルマン クライベイビー』は、2018年に配信されたネットフリックスオリジナル作品だ。 de…

高原英理『ゴシックハート』 抑えた筆致で語る、反逆の美意識

ゴシック/ゴス・カルチャーの基本図書が文庫化 高原英理による『ゴシックハート』は2004年に講談社より単行本として刊行され、2017年に立冬舎文庫として文庫化、そして2022年にちくま文庫として二度目の文庫化となった。本書は日本においてもゴシック/ゴス…

YOMUSHIKA MAGAZINE vol.5 MARCH 2023 特集:怪物

きっかけはフライザだった。"フライザ"なのか"ラ・フライザ"なのかはいつも論議を呼ぶところで、年配の村医者たちや、称号付けをうけもつ長老たちを悩ませてきた。彼女は正常に見えた。──ほっそりした褐色の体、きれいな歯並み、広い鼻、真鍮色の目。生まれ…

ティム・バートン監督『ウェンズデー』 モノクロームなゴシックへの帰還

90年代バートン映画ファンの懐古的な語りをお届けします。 さて『ウェンズデー』です。説明不要な気もするものの一応説明すると、往年の大ヒット・ゴシック・コメディー映画『アダムス・ファミリー』シリーズ(原作は漫画らしい)の登場人物ウェンズデーを主…

BUCK-TICK『SIX/NINE』『十三階は月光』 コンセプト・アルバムという贅沢

BUCK-TICKのお勧めコンセプト・アルバムを唐突に紹介する 音楽を聴く手段がすっかりサブスクに移行し、音楽雑誌を読むこともなくなると、近年はいよいよ音楽なんてその時なんとなく目についたものを聴くという感じになっている。(ちなみに私は音楽雑誌を読…

飛浩隆『ラギッド・ガール』 緻密で官能的に描かれた、不可避の暴力についてのSF

「廃園の天使」シリーズの短編集(この本から読んでOK) 飛浩隆について書くのは難しい。飛浩隆を読むという体験をどのように書けばいいのか、ちょっとよくわからない。 飛浩隆の小説はSFである。そしてこのSFは、我々を無傷のままにはしておかない。我々は…

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『ブレードランナー2049』の限りのない寂しさ

名作の続編がまた名作だったという嬉しい驚き ブレードランナー 2049 ハリソン・フォード Amazon リドリー・スコット監督『ブレードランナー』のファンであればあるほど、続編製作を知った時には「ええ~?」と感じた人も多かったのではないかと思う。私もそ…

YOMUSHIKA MAGAZINE vol.1 JULY 2022 特集:ゴス

周知のように、消印つきの切手だけを求める蒐集家がいる。彼らだけが、ことの秘密に分け入ったのだ、とほとんど思いたくなるような者たちである。彼らは、切手のオカルト的な部分を重んじる。すなわち消印である。というのも、消印は切手の夜の面なのだ。消…

ポーの傑作「アッシャー家の崩壊」のラストシーンが好きすぎる

まずは「アッシャー家の崩壊」をネタバレなしで紹介します。 アッシャー家の崩壊/黄金虫 (光文社古典新訳文庫) 作者:ポー 光文社 Amazon さてエドガー・アラン・ポーである。前回はポーの話をしようと思ったらそのあまりの邦訳のバージョンの多さについそち…

最初にハマった小説がギブスン『ニューロマンサー』だった人間の末路

卵から孵って最初に見たのが『ニューロマンサー』 ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF) 作者:ウィリアム ギブスン 早川書房 Amazon 私はウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』が大好きというか、現在に至るまでに読んでいるSF、あるいは文学、あるいは…

ネトフリドラマ化原作、ニール・ゲイマン『サンドマン』を読んでみたら最高の現代ファンタジーだった

ニール・ゲイマンとは? ニール・ゲイマンという作家は英米と日本で知名度にかなり差のある作家だと思う。日本ではまだそんなに知られていない気がするが、英米では絶大な評価と人気を持っている作家という感じだ。SF・ファンタジーの分野から出発しつつ、現…

『ザ・バットマン』はゴシック・クラシックになり損ねたのか?

THE BATMAN-ザ・バットマン-(字幕版) ロバート・パティンソン Amazon 映画のネタバレを含みます! マット・リーヴス監督「ザ・バットマン」は、一見本格的なゴシック・ノワールとして始まる。 ゴッサムシティはかつてないほどにゴシックな建築の立ち並ぶ都…

文庫でポーを読もう! エドガー・アラン・ポーの文庫を徹底比較

ポーの文庫ってどれを買ったらいいの!? 私は御多分に洩れずエドガー・アラン・ポーのファンです。ミステリ、ホラー、ゴシック、SF、ファンタジーといったジャンル全てのルーツになっていると言っても過言ではない(やや過言)作家なので、そういうジャンル…

ムアコック「エルリック・サーガ」で出会う暗黒ファンタジーと葛藤するヒーロー

はじめてのダーク・ファンタジー メルニボネの皇子 作者:マイクル ムアコック 早川書房 Amazon フロム・ソフトウェアのエルデンリングが大人気なわけだが、ああいうダークな雰囲気のヒロイック・ファンタジーを見ると『エルリック・サーガ』を思い出す。 中…

不思議な映画『ダークナイトライジング』は、ノーランのゴシックおとぎ話だ。

好きにならずにはいられない、『ダークナイトライジング』 ※この記事は全部ネタバレです。 バットマンの新作が公開されているわけだが、まだ見れてないので今回は私の好きなバットマン映画を紹介しよう。 傑作かどうかと言われるとよくわからないものの、妙…