もう本でも読むしかない

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どれから読む?稲垣足穂・文庫ガイド──『一千一秒物語』『天体嗜好症』『少年愛の美学』

稲垣足穂の各社文庫の収録作を紹介

 

稲垣足穂と言えば、一千一秒物語でおなじみ大正から昭和初期の文学者、天体と飛行と無機物に憧れるモダニスト横光利一や初期の川端康成と並ぶ新感覚派の一員、「A感覚とV感覚」を発表した独自のエロティシズムの研究者──などなど、みなさんもお好きに違いない近代日本文学の巨匠ですよね。

とはいえ、なんとなく巨匠っぽくないというか、いわゆる「文学」の本流からは外れた感じがあるのもまた魅力です。

いま足穂を読んでみようかなとなった場合、まずはやっぱり新潮文庫から出ている作品集『一千一秒物語』を手に取る方が多いのではないかと思うのですが、さてその次の一冊というと、何を買えばいいのか少し困ってしまうのではないでしょうか。

というか単に私が困っているのですが、同じような悩みを抱えた方が日本全国におられるに違いないと信じつつ、現在手に入りそうな文庫本の収録作品をまとめてみました。

 

近代日本の有名作家というのはだいたいの場合、とりあえず新潮文庫を見ればたいていの作品が揃っているものなのですが、稲垣足穂の場合は、新潮からは上記の作品集が一冊出ているきりです。他社からのものは過去にいろいろ出ていたものの、その多くが現在は手に入りにくい状態になっています。

ここではまず新潮文庫の収録作を紹介し、その後に現在入手可能と思しき他の文庫を見ていきます。

収録作の中で太字になっているものは、他の本と重複しているものとなります。

(記事の最後に重複作の一覧表があります)

 

新潮文庫

一千一秒物語

黄漠奇聞

チョコレット

天体嗜好症

星を売る店

弥勒

彼等

美のはかなさ

A感覚とV感覚

 

初めて読む方は、とりあえずこの一冊を買っておけば間違いないかと思われます。価格も安く、代表作と言われるものが網羅されています。また小説だけでなく評論・批評も入っておりバランスが良いです。(他の本もだいたいそうですが)

弥勒」「彼等」「美のはかなさ」の三篇は現在文庫ではこの本にのみ収録されており、特に弥勒は自伝的な内容を含む小説なので重要かと思います。

 

 

※これ以下、赤い太字は新潮文庫との重複作、黒い太字はその他の本との重複作です。

 

 

ちくま日本文学

一千一秒物語

鶏泥棒

チョコレット

星を売る店

放熱器

フェヴァリット

死の館にて

横寺日記

雪ヶ谷日記

山ン本五郎左衛門只今退散仕る

空の美と芸術に就いて

われらの神仙主義

似而非物語

タッチとダッシュ

異物と滑翔

 

続いては、信頼の「ちくま日本文学」シリーズ。文庫サイズの日本文学全集です。ザ・足穂という感じの定番作品一千一秒物語」「チョコレット」「星を売る店」のみ新潮と重複。

こちらが最初の一冊でもいいですね。

 

 

河出文庫

現在、河出文庫からは3冊の作品集が出ています。定番作品から読みたい場合はヰタ・マキニカリス『天体嗜好症』、いきなり評論から読みたい場合は少年愛の美学を買うのがいいかと思います。

ちなみに短編「天体嗜好症」は、『天体嗜好症』ではなく『ヰタ・マキニカリス』に収録されています(ややこしい)。

黄漠奇聞

星を造る人

チョコレット

星を売る店

「星遣いの術」について

七話集

或る小路の話

セピア色の村

緑色の円筒

煌ける城

白鳩の記

「タルホと虚空」

星澄む郷

天体嗜好症

月光騎手

海の彼方

童話の天文学者

北極光

記憶

放熱器

飛行機の哲理

出発

似而非物語

青い箱と紅い骸骨

薄い街

リビアの月夜

お化けに近づく人

紅い雄鶏

夜の好きな王の話

電気の敵

矢車菊

ココァ山の話

飛行機物語

ファルマン

 

1 A感覚とV感覚

 澄江堂河童談義

 A感覚とV感覚

 異物と滑翔

2 『少年愛の美学

 幼少年的ヒップナイド

 A感覚の抽象化

 高野六十那智八十

 

1 一千一秒物語

2 天体嗜好症

 散歩しながら

 パンタレイの酒場

 Aと円筒

 瓦斯燈物語

 美学

 鶏泥棒

 月光密輸入

 カールと白い電燈

 ラリイの夢

 わたしの耽美主義

 われらの神仙主義

 天文台

 彗星倶楽部

 螺旋境にて

 僕の触背美学

 オートマチック・ラリー

 ラリイシモン小論

 つけ髭

 サギ香水

 ちょいちょい日記

 或る倶楽部の話

 ちんば靴

3 宇宙論入門

 私の宇宙文学

 ロバチェフスキー空間を旋りて

 僕の“ユリーカ”

4 ヒコーキ野郎たち

 空の美と芸術に就いて

 滑走機

 逆転

 飛行機の黄昏

 飛行機の墓地

 おくれわらび

 

 

STANDARD BOOKS

こちらの平凡社STANDARD BOOKSは文庫ではないのですが、後述の講談社文芸文庫よりも価格が安いため、だったら紹介しておくべきかなということで載せています。

随筆集となり、小説は載っていません。

 

月と虫

何故私は奴さんたちを好むか

星一夕話

緑色の円筒

月に寄せて

大きな三日月に腰かけて

月は球体に非ず!―月世界の近世史

おそろしき月

空中世界

庚子所感

神戸三重奏

ガス灯へのあこがれ

グッドナイト!レディーズ―TOR-ROAD FANTASIA

工場の星

飛行者の倫理

空界へのいざない

飛行機の黄昏1

飛行機の黄昏2

横寺日記

きらきら草紙

「黒」の哲学

放熱器

夢がしゃがんでいる

 

 

講談社文芸文庫

こちらは詩と随筆などを集めたものです。一篇が短いため収録作が非常に多いので全ては載せませんが、ここまでに挙げた本と重複しているのは「タルホと虚空」「散歩しながら」「空の美と芸術に就いて」「空中世界」のみかと思われます。大半の内容は現在はこの文庫のみで読めるということでよいと思います。

 

 

とりあえずは以上です。

もし間違いに気づかれた方はお知らせください。

みなさまぜひ稲垣足穂を手元に置き、折に触れてその硬質かつ幻想的な世界に触れてくださいませ。

 

重複作品メモ