もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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奈落の新刊チェック 2024年3月 海外文学・SF・現代思想・哲学・嘘つき姫・ブルックナー譚・見ることの塩・少女小説とSF・アンチ・ジオポリティクス・ゾンビの美学・ピラネージほか

暑くなったり寒くなったりしつつ早いもので世の中は新年度ですが、まだまだ旧年度の新刊が睨みを利かせています。年度の切れ目など、人類そして宇宙の歴史の前では何の意味も持たぬ区切りにすぎない……人類の営みとは……などと紋切り型の詠嘆をたわむれに捻りつつ、2024年3月の気になる新刊をどうぞ。

 

2020年より、SFを中心とした様々なコンテストに入賞してきた新鋭の初の単行本が登場。岸本佐知子小山田浩子・斜線堂有紀という豪華作家陣が推薦コメントを寄せている。

 

今年2月に『東京都同情塔』で芥川賞を受賞した作者の、昨年の野間文芸新人賞受賞作が前後して単行本化。

 

2022年に芥川賞候補となった筋トレ小説が文庫化。昨年の『我が手の太陽』も芥川賞候補。

 

2012年に刊行された金井美恵子の話題作が満を持しての文庫化。

 

小説、評論、アンソロジストとして活躍する高原英理による、作曲家ブルックナーの「評伝と小説のハイブリッド」とのこと。同著者についての過去記事はこちら↓

高原英理『ゴシックハート』 抑えた筆致で語る、反逆の美意識 - もう本でも読むしかない

 

なんと、新潮文庫安部公房に新刊が登場。比較的近年に発見された初期作などを集めたもののようです。

 

アンゴラ生まれのポルトガル人作家による移民小説。訳者はパウロ・コエ-リョやジョゼ・サラマーゴなど手掛け、近訳書にアグアルーザ『過去を売る男』サラマーゴ『象の旅』など。

 

レムのメタ・ミステリと不条理小説を合わせて収録した、ファンには嬉しい一冊。訳者は同シリーズのレム『FIASKO‐大失敗』のほか、アダム・ミツキェーヴィチ『コンラッド・ヴァレンロット』など手掛ける。

 

パレスチナ生まれの詩人ダルウィーシュの詩集が、四方田犬彦訳でちくま文庫より刊行。エドワード・サイードにも影響を与えた詩人とのこと。

 

 

続いて、2005年に刊行されていた四方田犬彦の『見ることの塩 パレスチナセルビア紀行』が二分冊で河出から文庫化。タイトルがそれぞれ「イスラエルパレスチナ紀行」と「セルビアコソヴォ紀行」に変更になっている。著者近著に『人形を畏れる』『サレ・エ・ぺぺ 塩と胡椒』『いまだ人生を語らず』など。

 

博士論文をもとにした、本格的なミラン・クンデラ研究。著者はこれが初の著書となる。共訳書に『美術館って、おもしろい! 』アンナ・ツィマ『シブヤで目覚めて』。

 

現代の映画におけるシェイクスピアの翻案を辿りつつ現代人のルネサンス的心性を探る本のようだが、最初に取り上げられるのがなんと『エイリアン:コヴェナント』。著者には他に『パブリック圏としてのイギリス演劇: シェイクスピアの時代の民衆とドラマ』、訳書にラロック『シェイクスピアの祝祭の時空 エリザベス朝の無礼講と迷信』など。

 

世代を超えて集まった少女小説作家によるSFアンソロジー日本SF作家クラブ、嵯峨景子編。編者の近著には『氷室冴子とその時代 増補版』『少女小説を知るための100冊』などがある。

 

日本SF精神史【完全版】』著者による、70~80年代のものを中心としたSF少女マンガの歴史。著者近著に『萩尾望都がいる』『独身偉人伝』『日本回帰と文化人 ――昭和戦前期の理想と悲劇』など。

 

地政学ブーム喧しい中、「反地政学」のタイトルを持った大著が登場。著者はこれが初の単著となる。これまで『交差するパレスチナ: 新たな連帯のために』『惑星都市理論』などの論集に参加、訳書にメッザードラ『逃走の権利: 移民、シティズンシップ、グローバル化』、共訳書にベラルディ『ノー・フューチャー: イタリア・アウトノミア運動史』など。

 

博士論文をもとにした本格ゾンビ研究。著者の初の著書となる。参加論集に『ヒューマン・スタディーズ 世界で語る/世界に語る』『モダンの身体: マシーン・アート・メディア』、共訳書にブライドッティ『ポストヒューマン 新しい人文学に向けて』クロンブ『ゾンビの小哲学: ホラーを通していかに思考するか

 

ケアの倫理とエンパワメント』『世界文学をケアで読み解く』等の著者によるゴシック文学論。

 

建築家、版画家ほか様々な顔を持つピラネージの作品と生涯をたどる。著者は建築関連の著書・訳書多数。近著に『つれづれ日記: 五輪の巻』『小さな家の思想 方丈記を建築で読み解く』『ピラネージ〈牢獄〉論: 描かれた幻想の迷宮』、訳書に『ルタルイー近代ローマ建築』各巻など。

 

決定論と自由についての哲学。著者はこれが初の単著で、専門は分析哲学とのこと。

 

フランス現代哲学を専門とする著者による倫理学入門。著者近著に『いかにして個となるべきか?: 群衆・身体・倫理』『死の病いと生の哲学』『現代思想講義――人間の終焉と近未来社会のゆくえ』など。

 

ショック・ドクトリン: 惨事便乗型資本主義の正体を暴く <a href=*1 (岩波現代文庫 社会 344)" title="ショック・ドクトリン: 惨事便乗型資本主義の正体を暴く *2 (岩波現代文庫 社会 344)" />
ショック・ドクトリン: 惨事便乗型資本主義の正体を暴く <a href=*4 (岩波現代文庫 社会 345)" title="ショック・ドクトリン: 惨事便乗型資本主義の正体を暴く *5 (岩波現代文庫 社会 345)" />

日本では東日本大震災の年に刊行されたナオミ・クラインの代表作が文庫化(原著2007年)。著者近著に『地球が燃えている : 気候崩壊から人類を救うグリーン・ニューディールの提言』『楽園をめぐる闘い: 災害資本主義者に立ち向かうプエルトリコ』など。訳者はほかにメイ・サートン、スティ-ヴン・ピンカ-など手掛ける。

 

副題にある通り、言語哲学法哲学の立場からヘイトスピーチを論じた論集。

 

多くの著者を集めた、アナキズムの現在を見渡す論集。編者は『アナキズム入門』の著者で、近著には『死なないための暴力論』『もう革命しかないもんね』など。

 

私にはいなかった祖父母の歴史―ある調査―』『歴史家と少女殺人事件―レティシアの物語―』などの著書で数々の賞を受賞しているフランスの歴史学者によるマチズモの歴史。訳者は同著者の翻訳のほか、著書に『近代科学と芸術創造: 19~20世紀のヨ-ロッパにおける科学と文学の関係』『グラン=ギニョル傑作選: ベル・エポックの恐怖演劇』などがある。

 

トリニダード・トバゴ生まれの歴史社会学者による帝国研究の書。近年は「帝国→国民国家」という単線的な歴史観が見直されているそうです。他にかなり古いが『予言と進歩』『ユートピアニズム』の邦訳あり。訳者には『スペイン・ポルトガル史 上』『』『スペイン史10講』『歴史のなかのカタルーニャ: 史実化していく「神話」の背景』などスペイン関連の著書が多い。

 

イギリス史を中心に多数の著書のある著者による君主制入門。『教養としてのイギリス貴族入門』『女王陛下の影法師 ──秘書官からみた英国政治史』『貴族とは何か―ノブレス・オブリージュの光と影―』『ハンドブックヨーロッパ外交史:ウェストファリアからブレグジットまで』など近著も多数。

 

小アジアを中心とした、帝政ローマ時代のギリシア都市の研究。これが著者の初の著書のようです。

 

種村季弘の2006年の文庫が新装復刊。タネムラが東京の裏町30をめぐる。

 

昨年復刊されたバルトルシャイティス幻想の中世』の翻訳者でもある著者の2001年刊の芸術論が復刊。ほか近著に『チェコ・アヴァンギャルド: ブックデザインにみる文芸運動小史』『ことばとかたち: キリスト教図像学へのいざない』『雲の伯爵: 富士山と向き合う阿部正直』など

 

2022年『ショットとは何か』に続く蓮實重彦の映画批評集。単行本未収録のものを集めた本のようです。

 

野心的なキュレーターによる初の著書で、芸術史・思想史も含めたパンクの歴史をまとめる。

 

 

ではまた来月。

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