もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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奈落の新刊チェック 2023年3月 海外文学・SF・現代思想・歴史・五色の舟・肌色の月・文明交錯・犠牲の森・公共哲学・キルヒャーほか

いよいよ新年度の始まりということで、新入学などされた皆様におかれましてはおめでとうございます。しかし海外に住んでると特に思うわけですが、新卒一括採用というシステムはいい加減いつまで続くんでしょうかねえ。などと社会について軽く吟じつつ3月に刊行された面白そうな本をピックアップします。

 

何度も品切れては復刊している阿部和重の初期作品群がまたまた復刊。でも「アメリカの夜」はこれが二度目かも。今読み返したいのは「ニッポニアニッポン」ですかねえ。

 

高山羽根子による圧巻の歴史改変SFが文庫化。過去記事で紹介してますのでこちらをどうぞ。

高山羽根子『暗闇にレンズ』を読んで震えあがった。 - もう本でも読むしかない

 

津原泰水の名作SF短編を、なんと宇野亞喜良が18点の描き下ろし挿画でヴィジュアル化!!さらに英訳も収録されてます。同短編には近藤ようこによる漫画版『五色の舟』もあります。原作はこちらの『11 eleven』に収録。

 

おなじみのアンソロジスト日下三蔵編による久生十蘭のミステリ短編集。全8篇収録で、私の好きな「予言」も入ってます。久生十蘭についてはこちらをどうぞ。

『久生十蘭短編選』で短編の超絶技巧を味わえ - もう本でも読むしかない

 

国書刊行会のレム・コレクションより、レムの初期短編を集めた短編集が登場。翻訳はおなじみ    沼野充義

 

HHhH (プラハ、1942年)』で知られるローラン・ピネの2019年作。なんと、インカ帝国が逆にスペインを征服する歴史改変小説だそうです。訳者の橘明美はピエール・ルメートルからスティーブン・ピンカーまで手掛けている

 

この本は初めて英語で書かれたガルシア=マルケスの伝記だそうです。著者はラテンアメリカ文学専門の批評家で、他にミゲル・アンヘル・アストゥリアスについての著作もあるとのこと。翻訳は南米文学好きにはおなじみ木村榮一

 

日本SF作家クラブの前会長であり、各方面で活躍している池澤春菜の監修による最新のSFガイド。国内・国外の作家を各50名紹介しつついろんなコラムも読めるようです。

 

台湾と日本それぞれの文学が、互いにどのように影響を与えあったかという研究。著者は台湾文学に関する著書を何冊か出しているがどれも入手困難のよう。

 

奇しくも大江健三郎の逝去と同時の刊行となった、著者の博論の書籍化。第12回東京大学南原繁記念出版賞受賞作とのことです。

 

古書・古書店についての著書が多い著者による、新感覚派とその周辺作品を集めたアンソロジー。横山利一、堀辰雄川端康成を始めとして18篇収録。

 

1920年代のパリを象徴する伝説の書店の、店主シルヴィア・ビーチによる回顧録。1992年、2011年に出たものの文庫化。「狂乱の20年代」の文化の中心地を追体験しよう。

 

ボーヴォワールによるフェミニズムの古典。2001年に新潮文庫から出ていたものと同じく「『第二の性』を原文で読み直す会」による翻訳。

 

最近アレント関連の本が多いですが、代表作のひとつが講談社学術文庫から新訳で登場。翻訳は『精読 アレント『全体主義の起源』』『今を生きる思想 ハンナ・アレント 全体主義という悪夢』など自分でも関連書を次々と刊行している牧野雅彦。

 

スペインの文献学者による、ペトラルカやエラスムスといった人々が牽引したユマニスム(人文主義)についての研究書。訳者の清水憲男には『ドン・キホーテの世紀―スペイン黄金時代を読む』『新・スペイン語落ち穂ひろい: 777の表現集』などの著書あり。

 

自由論、正義論、民主主義などに関する著書・共著が多い二人の著者によるコンパクトな公共哲学入門。カント、功利主義ロールズリバタリアニズムなど基本のおさらいに良さそう。

 

建築・都市の研究者たちが「空間」の観点から戦後史を描写する論集。「戦後空間研究会」編。

 

1998年刊行の本が岩波現代文庫で文庫化。近代における大阪の発展には朝鮮人労働者の存在が不可欠だったとし、その歴史を辿りつつ「地域からの世界史」をめざす。著者の近著には『戦後日本の〈帝国〉経験 断裂し重なり合う歴史と対峙する』などもある。

 

2003年に講談社選書メチエから出ていたものが増補版となってちくま学芸文庫入り。明治日本を作った政治家たちの西洋体験から、日本的立憲君主制の成立を追う。角川財団学芸賞大佛次郎論壇賞ダブル受賞作。著者は昨年の『大久保利通: 「知」を結ぶ指導者』でも毎日出版文化賞を受賞。

 

7世紀から290年間にわたって続いた大帝国、唐の歴史が中公新書から。著者の近著は『ソグド人と東ユーラシアの文化交渉』『安禄山―「安史の乱」を起こしたソグド人』など。ソグド人というのは中央アジアで交易をおこなったイラン系民族だそうです。

 

ルネサンス時代の幻視者キルヒャーの奇想の世界図鑑が新版で登場(旧版は1986年)。一家に一冊。

 

「「魔術」の伝統を現代によみがえらせる画期的な論にして、未来にむけた魔術論の決定版」「なにものをも平等にあつかい、生のあるなしに関わらず、すべてのものとともに生きるという「魔術」が持つあたらしい可能性をみはるかす、壮大にして革新的な魔術論。」とのこと。一体何が書いてあるのか……  訳者の松田和也は歴史・ノンフィクション・そして魔術関連書の訳書多数。

 

タイトルが衝撃的だった『積読こそが完全な読書術である』の続編。「「多読という信仰」を相対化」するというのはいいですね。私も再読は好きです。著者には他に『書物と貨幣の五千年史』も。

 

昨年3月に逝去した青山真治について多くの人が語る。未発表脚本も収録。

 

有害生物を駆逐することもできるが、時にそれ自体が害ともなる「天敵導入」にまつわる生物研究者たちの様々な試み、成功、失敗を描いた著作。著者は進化生物学が専門で、『歌うカタツムリ-進化とらせんの物語』で毎日出版文化賞を受賞。近著にブルーバックス進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』など。

 

それではまた来月。