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ネトフリドラマ『暗黒と神秘の骨』 王道ジュヴナイル・ファンタジーと悪党三人組の魅力を見よ

シーズン2配信を記念して、シーズン1をざっくり紹介します

youtu.be

Netflixオリジナルドラマ、シャドウ・アンド・ボーンこと『暗黒と神秘の骨』のシーズン2がこの3月ついに配信された。私はこの王道ファンタジードラマのシーズン1に大変はまっていたので待望の配信である。

しかしこのドラマ、なんとなく日本ではいまいち話題になっていないような気がするので、この機会にシーズン1を振り返りつつ紹介してみよう。

『暗黒と神秘の骨(Shadow and Bone)』はイスラエルアメリカ人作家リー・バーデュゴによる同名のファンタジー小説を原作としたドラマで、原作は英語圏ではベストセラーとなっている。ちなみに原作小説はカテゴリーとしてはヤングアダルト小説、つまり10代向け小説として刊行されており、つまりこの物語はもともとジュヴナイル・ファンタジーということだ。

 

物語の舞台は、魔法使いが存在しつつ、銃火器や機関車は存在するくらいの文明レベルのファンタジー世界。ラヴカ王国には、国土のど真ん中に「影溜まり」という黒い霧に包まれ怪物が跋扈する帯状の地帯があり、そこを越えることは命懸けであった。主人公のアリーナは地図製作者として、幼なじみである軍人のマルとともに影溜まりを越える陸上船に乗り込むが、ひょんなことから魔法の力を持っていることが判明する。しかも彼女の持つ魔法は、影溜まりを排除できるかもしれない、「太陽の召喚者」と呼ばれる力だったのだ──

こうしていきなり重要人物となったアリーナは、幼なじみのマルと別れ、生まれながらの魔法使いたちが集う組織「小王宮」に入れられて魔法の訓練を行うことになる。今までは一般人として暮らしてきたのに、突然特権階級である魔法使いになったアリーナは、外界とは別世界の小王宮で戸惑いながらも修行を開始。そしてここからは怒涛の王道展開である。厳しい師匠、意地悪な先輩たち、意外と頼れるお目付役。戦地に残してきた幼なじみのことは心配だけど、男らしくも謎めいた指導者キリガン将軍と急接近してしまい……?

 

どうだろう、この王道感。定番の展開をこれでもかと見せてくれて、あなたも画面の前で「私これからどうなっちゃうの〜〜??」となること請け合いである。特に離れ離れになったアリーナとマルが、お互いを心配して頻繁に手紙を書くものの、どういうわけかその手紙が一向に相手の元に届かないあたりは「ああ〜〜!!」と悶えてしまう。そんなことをやっているうちにイケメン将軍がアリーナにぐいぐい迫ってくるのでもう大変だ。

とまあ面白おかしく書いてしまったが、物語の骨格は、若者が世界の驚異や多くの人々と出会い、自分の力に目覚めて成長して行く、まさに王道のジュヴナイル・ファンタジーだ。初心に返って見てほしい。

 

なお上記とは別の部分でクィア要素も出てきますし、また主人公のアリーナは作中で人種的な偏見に晒される立場だったりし、その辺はネトフリ的な視点の広さが窺えます。

 

隠れた主役・クロウ一味

 

さて、ここまでメインキャラに話題を絞って書いてきたが、実は私がハマっていたのはサブキャラの方である。上記の話と並行してもう一つ、別の視点からの物語が進行するのだ。こちらの主人公は、クロウ一味という三人組。「太陽の召喚者」であると判明し、賞金をかけられたアリーナを拉致しようと企む悪党たちである。

狡知に長けたリーダーのカズ、軽業師にして暗殺者のイネジュ、そして凄腕ガンマンのジェスパー。この三人組は最初すごく悪そうな感じで登場するのだが、回を追うごとにその魅力を増していき、気がつくと視聴者はひたすらこいつらの悪巧みを応援することになる。特に、いかにも血も涙もない悪人という風情のリーダーのカズが、実際にはお前一体なんなんだというほどに仲間が大好きすぎるボスで、赤面するほど直球のセリフを手下に対してバンバン吐いていくので油断がならない。シーズン1を見終わる頃には、あなたもアリーナとマルと将軍の三角関係などそっちのけでこの悪党三人組の絆に夢中になるだろう。なるはずだ。

 

そんな波瀾万丈の王道ファンタジードラマ『暗黒と神秘の骨』、このタイミングでぜひ見てみてほしい。私もこれからシーズン2を見ます。

 

そのうち読みたい

 

こちらが原作小説。ヤングアダルト小説なので、原書も比較的平易な語彙で書かれているはずです。