もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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2023-01-01から1年間の記事一覧

どれから読む?稲垣足穂・文庫ガイド──『一千一秒物語』『天体嗜好症』『少年愛の美学』

稲垣足穂の各社文庫の収録作を紹介 稲垣足穂と言えば、『一千一秒物語』でおなじみ大正から昭和初期の文学者、天体と飛行と無機物に憧れるモダニスト、横光利一や初期の川端康成と並ぶ新感覚派の一員、「A感覚とV感覚」を発表した独自のエロティシズムの研究…

樋口陽一『リベラル・デモクラシーの現在』 重鎮が語る、立憲主義の普遍性

戦後を代表する憲法学者の最新講演集 リベラル・デモクラシーの現在 「ネオリベラル」と「イリベラル」のはざまで (岩波新書) 作者:樋口 陽一 岩波書店 Amazon 改めて憲法に関する本が読みたいなと思い、そしてどうせならやはり定番著者の、しかも最近のもの…

木庭顕『誰のために法は生まれた』 徒党の解体と自由な個人〜法の根源を探る特別授業

法学者と中高生がともに古典を読む授業の記録 誰のために法は生まれた 作者:木庭顕 朝日出版社 Amazon 木庭顕『誰のために法は生まれた』は、ローマ法を専門とする法学者による法学入門の本だが、普通に書かれた入門書ではない。 これは中学三年から高校三年…

奈落の新刊チェック 2023年11月 海外文学・SF・現代思想・歴史・赦しへの四つの道・孔雀屋敷・ジュリアン・バトラー・言葉の風景・とるにたらない美術・四つの未来ほか

早いものでもう年の瀬ですが、早いといえばこの12月で当ブログももう開設2周年でした。どうにか細々と続けております。日頃のご愛顧のほど誠にありがとうございます。まだしばらくは趣味として続けていければと思います。 それでは11月の気になる新刊から。 …

小川洋子の短編の後ろめたい楽しみ 『薬指の標本』ほか

静謐で幻想的な短編集 薬指の標本(新潮文庫) 作者:小川洋子 新潮社 Amazon ※今回は本の紹介というよりも、かなり個人的な楽しみについてのエッセイのような文章です。 これで小川洋子に関する記事を書くのは二本目だが、正直いって私は、この作家がどうい…

マポロ3号『PPPPPP』 誰も読んだことがなかった、鮮烈な視覚的ピアノ漫画

『対世界用魔法少女つばめ』連載中のマポロ3号のデビュー作 マポロ3号の新連載が、ついにジャンプ+で始まった。タイトルは『対世界用魔法少女つばめ』。 shonenjumpplus.com 「まどマギ」を思わせる終末型の魔法少女もの、という定番モチーフの漫画だが、そ…

千葉雅也『デッドライン』『オーバーヒート』『エレクトリック』 世界と欲望の解像度

哲学者による、自伝的な小説三部作 デッドライン(新潮文庫) 作者:千葉雅也 新潮社 Amazon オーバーヒート 作者:千葉 雅也 新潮社 Amazon エレクトリック 作者:千葉 雅也 新潮社 Amazon 千葉雅也の『デッドライン』『オーバーヒート』『エレクトリック』の3…

奈落の新刊チェック 2023年10月 海外文学・SF・現代思想・歴史・夢見る宝石・金星の蟲・肉を脱ぐ・文学的絶対・吉田健一に就て・ニューロ・闇の精神史ほか

最近は弊ブログの更新頻度も徐々にスローペースになっており、あまり投稿していないうちに、気が付いたらこの新刊チェックの時期になっていることもしばしば。そのうち新刊チェックがこのブログのメインコンテンツになるかもしれませんが、まあそれはそれで…

星野太『食客論』 他者との「共生」という難題を、食事から考える哲学的エッセイ

他人と生きることが得意でない私たちの、「共生」の問題 食客論 作者:星野太 講談社 Amazon 美学を専門とし、特に「崇高」をテーマとした哲学書をデビュー以来続けて刊行してきた1982年生まれの著者、星野太の初めての一般書と言える『食客論』は、しかし一…

嘉戸一将『法の近代 権力と暴力をわかつもの』 何が法律の「正統さ」を保証するのか

法学の立場から国家の役割を問う新書 法の近代 権力と暴力をわかつもの (岩波新書) 作者:嘉戸 一将 岩波書店 Amazon 私たちはふだん法律に従って生活しているが、ではその法律、あるいは法律を執行する国家が「正統なもの」であると、どのように納得している…

ウィリアム・ギブスン原作のSFドラマ『ペリフェラル ~接続された未来~』が面白い!

シーズン2がキャンセルされたけど見てほしい! youtu.be 『ペリフェラル ~接続された未来~』は、2014年に発表されたウィリアム・ギブスンの小説『The Peripheral』を原作とする、Amazon Prime Videoによる2022年のドラマシリーズだ。 シーズン1の全8話が配…

伊藤博明『ルネサンスの神秘思想』 古代異教の神々はいかにキリスト教世界に復活したか

ルネサンスにおける〈神々の再生〉──古代の思想・宗教の復活 ルネサンスの神秘思想 (講談社学術文庫) 作者:伊藤博明 講談社 Amazon プラトンやアリストテレスなどの哲学者や、ピュタゴラスやユークリッド(エウクレイデス)などの数学者、さらにはゼウスやア…

奈落の新刊チェック 2023年9月 海外文学・SF・現代思想・歴史・方形の円・厳冬の棺・悪の凡庸さ・革命と住宅・暗闇に戯れて・絵画の解放・民藝ほか

記録的な猛暑が終わり、ようやく涼しくなって来たと聞いていますがみなさまいかがお過ごしでしょうか。こちらは南国に住んでいるのでよくわかりませんが、さぞかし本を読むのに相応しい気候になってきたのではないかと想像しております。もう本でも読むしか…

SFファンは「かぐやSFコンテスト」とオンラインSF誌「Kaguya Planet」に注目を!(あと自作宣伝)

私事で恐縮ですが…… 今回はいきなり私事で恐縮なのですが、尾崎滋流名義で「第3回かぐやSFコンテスト(テーマ:未来のスポーツ)」に応募した掌編が、選外佳作に選ばれました! 『夏の夕暮れ、タナトスの子供たち』というタイトルで、5分くらいで読めますの…

山本浩貴『現代美術史』 社会の中の芸術、そして国境を越えた「脱帝国の美術史」へ

社会と関わるものとしての現代美術 現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル (中公新書) 作者:山本浩貴 中央公論新社 Amazon 2019年に刊行された中公新書『現代美術史』は、自身も現代美術作家であり現在は金沢美術工芸大学で教鞭をとる山本浩貴による、…

アリエル・ドルフマン『死と乙女』 独裁政権下の苦しみを描く凄惨な戯曲

軍政が終わったばかりのチリを題材にした戯曲 死と乙女 (岩波文庫 赤N790-1) 作者:アリエル・ドルフマン 岩波書店 Amazon アルゼンチンに生まれチリで育った作家アリエル・ドルフマン(ドーフマン)の『死と乙女』は、1991年にロンドンで初演され、後にロマ…

奈落の新刊チェック 2023年8月 海外文学・SF・現代思想・歴史・奇病庭園・チク・タク・庭・人類学・ハイチ革命・遠野物語・関東大震災ほか

日本はまだまだ暑いようですがいかがお過ごしでしょうか。日除けと水分補給にはくれぐれもご注意くださいますよう。そろそろ読書の秋と言いたいところですがどうなんでしょうね。気になる本は秋を待たずに買ってしまうなり図書館にリクエストなりするのがい…

ディディ=ユベルマン『場所、それでもなお』 強制収容所の歴史を表層/外観から読み取ること

著者の代表作『イメージ、それでもなお』に連なる論文集 現代フランスの、哲学的な美術史家とでも呼ぶべきジョルジュ・ディディ=ユベルマンの代表的な書物に『イメージ、それでもなお』があるが、その内容に関連した3篇の文章を集めた日本独自の論集が、今…

張愛玲「傾城の恋」 近代中国の葛藤を織り込んだ傑作ラブロマンス

中国の現代文学を代表する作家 張愛玲(ちょう・あいりん/アイリーン・チャン)は、魯迅と並んで中国の現代文学を代表すると言われる作家だ。1920年に上海で生まれ、1944年に初の著書『伝奇』を刊行するやいなや大ベストセラーとなったという。後年アメリカ…

竹書房文庫のSFが気になる! 独自のセレクトとスタイリッシュなデザインで攻める新進SF文庫リスト

竹書房文庫のSFがやばい! SF専門の文庫レーベルと言えばハヤカワ文庫SFと創元SF文庫が二大巨頭ではありますが(あと河出とかちくまとか他の文庫レーベルからも面白いSFはたくさん出てますが)、近年は竹書房文庫のSFがどんどん存在感を増しており、気になっ…

『シン・仮面ライダー』が表現する、特撮のヌーヴェル・ヴァーグ的異物感

生々しい手触りを目指す、庵野秀明のヌーヴェル・ヴァーグ映画 シン・仮面ライダー 池松壮亮 Amazon 庵野秀明監督『シン・仮面ライダー』がようやく海外でも公開されたので、遅ればせながら劇場で見ることができた。(すでにAmazonプライムビデオで配信が始…

岡田温司『キリストの身体』 聖なる「身体」が導く美と政治

キリストの「身体」を読み解く表象文化論 キリストの身体―血と肉と愛の傷 (中公新書) 作者:岡田 温司 中央公論新社 Amazon 岡田温司についてはこのブログでも何度か紹介しているので重複になるかもしれないが、この著者には大きく分けて二種類の著作群がある…

奈落の新刊チェック 2023年7月 海外文学・SF・現代思想・歴史・七月七日・黄金蝶・パチンコ・日本橋・ニジンスキー・弥勒ほか

さて異常な暑さに襲われたりTwitterがXに変わったり雑誌インタビューから結婚の文字が消えたりと末法感ただよう今日この頃ですがいかがお過ごしでしょうか。くれぐれも熱中症には気をつけつつ、気を取り直して恒例の新刊チェックといきましょう。もう本でも…

YOMUSHIKA MAGAZINE vol.7 JULY 2023 特集:写真

私はホワイルアウェイの農場で生まれた。五歳のとき、(みなと同じように)南大陸の学校にやられたが、ちょうど十二になったばかりの頃にまた家族の一員になった。母の名はエヴァ、もう一人の母親はアリシアといった。私はジャネット・イヴェイソン。十三歳…

渡辺範明『国産RPGクロニクル』「ゲーム」という出来事を多角的に語る挑戦

ラジオ「アトロク」発のドラクエ・FF史 国産RPGクロニクル ゲームはどう物語を描いてきたのか 作者:渡辺範明 イースト・プレス Amazon 渡辺範明『国産RPGクロニクル』は、ラジオ番組「ライムスター宇多丸のアフター6ジャンクション」における、著者自身によ…

シャンタル・アケルマン『オルメイヤーの阿房宮』 コンラッドのデビュー作を映画化

再評価の進む監督による、植民地小説の映画化 オルメイヤーの阿房宮(字幕版) スタニスラス・メラール Amazon 先日、ジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』を紹介する記事(こちら)を書いている際、コンラッドの最初の小説である『オルメイヤーの阿房宮』が2010…

奈落の新刊チェック 2023年6月 海外文学・SF・現代思想・歴史・セイレーン・科学革命・マルタ騎士団・幻想の中世・国産RPGほか

2023年も半分が終わり、世の中が変わったり変わらなかったり、ツイッターが制限されたりメタがツイッターを作ったりと忙しいですが、めげずに新刊をチェックしていきましょう。最後に身を助けるのは紙の本。というわけで6月分の新刊です。 覚醒せよ、セイレ…

ガンダム『水星の魔女』の世界は、はたして「全然アリ」であったか

『水星の魔女』の結末と、第1話で示されていたもの g-witch.net (ネタバレがあります) アニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が最終回を迎え、2シーズン計24話の放送を終えた。 おそらくアニメとしては成功の部類なのだと思う。最後まで各種SNSでは話題に…

ジョゼフ・コンラッド『闇の奥』 植民地政策と密林の恐ろしさを、突き放した視線で描く

船乗り作家による、時代を超えた小説 闇の奥(新潮文庫) 作者:ジョゼフ・コンラッド 新潮社 Amazon ジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』は1899年にイギリスで発表された小説で、近代文学の名作と名高く、またポストモダン文学の先駆とも言われる、時代を越え…

クィアなSFが読みたい! 「クィアSF」というカテゴリーについて/創作SF小説のお知らせ

突然ですが…… 突然ですが創作SF小説を書いて投稿サイト「カクヨム」に投稿しました。少し前からSF小説を書いていたのですが、今回カクヨム公式企画である「カクヨム公式自主企画「百合小説」」に参加するべくユーザー登録したという次第です。 近未来のシン…