もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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奈落の新刊チェック 2023年6月 海外文学・SF・現代思想・歴史・セイレーン・科学革命・マルタ騎士団・幻想の中世・国産RPGほか

2023年も半分が終わり、世の中が変わったり変わらなかったり、ツイッターが制限されたりメタがツイッターを作ったりと忙しいですが、めげずに新刊をチェックしていきましょう。最後に身を助けるのは紙の本。というわけで6月分の新刊です。

 

 

オウィディウス『変身物語』を女性キャラクターの視点から語り直す。ケリー・リンクも推薦。作者はジャーナリストから大工への転身を書いたノンフィクション『彼女が大工になった理由』でデビューし、これが初のフィクションとのこと。訳者の小澤身和子は『クイーンズ・ギャンビット』『これからのヴァギナの話をしよう』などを手掛ける。

 

1930年代のアメリカ南部における人種差別を書いた古典的名作「アラバマ物語」が印象的なタイトルで新訳。訳者はデリーロ、フィリップ・ロスティム・オブライエンなどアメリカ文学を多く手掛ける上岡伸雄。

 

ハヤカワSFコンテストから『母になる、石の礫で』2015年にデビューした倉田タカシのSF短編集。

 

完璧じゃない、あたしたち』『ババヤガの夜』の王谷晶の新作。表題作に半自伝的小説「ベイビー、イッツ・お東京さま」を併録。

 

背骨が湾曲しグループホームで暮らす主人公の物語を書いて文學界新人賞を受賞した話題のデビュー作。芥川賞候補。

 

代表作「十九歳の地図」を含む中上健次の短編集が岩波文庫から。中上健次岩波文庫はこれが初めてのはず。

 

中世哲学の入門書が、『普遍論争』などでおなじみの第一人者である山内志朗によって手に取りやすい新書で登場。『ドゥルーズ 内在性の形而上学』『わからないまま考える』など近刊も多彩。

 

自由論で必ず名前が出てくるジョン・ステュワート・ミルの入門書が中公新書から。著者は『自由論』『功利主義』など岩波文庫でミルの翻訳をしている関口正司。

 

橋川文三の、これまで書籍に未収録だった文章や対談を含む政治思想論集。

 

岸政彦・梶谷懐編集による、所有と資本主義に関する論集。

 

パラダイムシフト」概念の生みの親としておなじみトーマス・クーンの代表作が新訳で登場。訳者の青木薫サイモン・シンフェルマーの最終定理』やブライアン・グリーン『時間の終わりまで』なども手掛ける。

 

精神分析やケアの分野で知られる村上靖彦による、客観性・エビデンス・数値化などの概念に潜む罠について考えるエッセイ。著者近刊には『「ヤングケアラー」とは誰か』『ケアとは何か』『交わらないリズム: 出会いとすれ違いの現象学』など。

 

ニューカレドニアセントヘレナ、サハリンという、かつて「帝国」の流刑地だった島々をめぐる紀行文学。作者はこれが初の邦訳。翻訳はビル・ゲイツのベストセラー『地球の未来のため僕が決断したこと』『パンデミックなき未来へ 僕たちにできること』や、話題作『セックスする権利』などを手掛ける山田文。

 

多数の著書のある宗教学者島田裕巳による、世界史上の大帝国と宗教の関係を概観した入門書が講談社現代新書から。

 

千年の歴史を持ち、領土を持たないが国家としての主権を持つという騎士修道会マルタ騎士団についての本だが、なんと著者は日本人にしてマルタ騎士に叙任されている物理工学者とのこと。

 

1998年に平凡社ライブラリーから上下巻で出ていた図像学の名著が、同じライブラリーから合本新版として再刊。

 

「妖怪学」の創始者井上円了の代表的な文章を集めた新編集のアンソロジー

 

洋画家・竹久夢二の、晩年における世界各国漫遊についての研究。アメリカ、ヨーロッパ、そして当時日本の植民地だった台湾を巡ったという。著者は『日本帝国と民衆意識』『福沢諭吉』などの著書があり、2020年に没した思想史家。

 

ブルガーコフの翻訳やロシアの文学・芸術に関する研究で知られる水野忠夫の、1985年の本がちくま学芸文庫で復刊。

 

気鋭の批評家・シェイクスピア研究者の北村紗衣による、英語に関するエッセイ。「『マンダロリアン』で学ぶビジネス英語」は気になります。

 

アナログゲームメーカー、ドロッセルマイヤーズ代表で、ゲームデザイナー/プロデューサーとして知られる渡辺範明の初の著書。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」の人気コーナーを書籍化したもので、ドラゴンクエストファイナルファンタジーという二大国産RPGシリーズの歩みとその文化的意義を縦横に語る。ドラゴンクエストの誕生に深く関わった編集者・鳥嶋和彦のインタビュー収録。

 

介護するからだ』『うたのしくみ』『絵はがきの時代』など多彩な仕事のある人間行動学者、細馬宏通による漫画の「フキダシ」論。

 

英国の前衛バンド、ヘンリー・カウを研究した大著が登場。著者はコーネル大学で教鞭をとる音楽学の専門家。訳者の須川宗純は『フランク・ザッパ自伝』、『マイナー音楽のために―大里俊晴著作集』などを手掛けた編集者とのこと。

 

 

以上、ではまた来月。