もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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2024-01-01から1年間の記事一覧

奈落の新刊チェック 2024年11月 海外文学・SF・現代思想・哲学・歴史・悪い時・鹽津城・愛らしい未来・宵闇色・ひとごと・遊びと利他・反逆罪ほか

あっという間に師走となりまして、ということは当ブログも開設3周年ということになりました。みなさま日頃のご愛顧ありがとうございます。だんだん更新頻度は減っておりますが、今後も無理のない範囲で細々と続けていければと思っております。引き続きよろし…

エドワード・ヤン監督『カップルズ』 都市と若者たちの映画

台湾ニューシネマを代表する監督による青春映画 Asian Film Archiveより シンガポールのNGO「Asian Film Archive」主催のエドワード・ヤン映画祭にて、1996年の映画『カップルズ(原題:Mahjong)』を見た。 エドワード・ヤンは、1980年代から始まったいわゆ…

斜線堂有紀の奇想SF短編集『回樹』 思いの切実さと危険さを、つねに同時に描くこと

斜線堂有紀の初めてのSF短編集 回樹 作者:斜線堂 有紀 早川書房 Amazon 今回紹介する『回樹』は、2023年に刊行された斜線堂有紀の初のSF短編集。 もともとミステリや恋愛小説の分野で知られていた作者だが、アンソロジー等にしばしばSF短編を寄せることがあ…

奈落の新刊チェック 2024年10月 海外文学・SF・現代思想・哲学・歴史・無限病院・光の速さ・大量死・庭に埋めたもの・台湾と沖縄・人類の都ほか

国際情勢が息つく暇もない昨今ですが皆様いかがお過ごしでしょうか。世の中が落ち着かなくなればなるほどSNS上に拙速な言葉が飛び交うのはもはや避けがたい世界の有様ですが、そんな時ほど書物に蓄えられた思考に触れ、言葉の減速を図るべきかと思います。も…

高原英理編『川端康成異相短篇集』 ただならぬ世界を描く、巨匠の異色アンソロジー

「常ならぬ相」をテーマに編まれた作品集 川端康成異相短篇集 (中公文庫 か 30-7) 作者:川端 康成,高原 英理 中央公論新社 Amazon 収録作品:心中/白い満月/地獄/故郷/離合/冬の曲/朝雲/死体紹介人/蛇/犬/赤い喪服/毛眼鏡の歌/弓浦市/めずらしい人/無言/たま…

奈落の新刊チェック 2024年9月 海外文学・SF・現代思想・哲学・歴史・おかゆ・灯台へ・缶詰サーディン・トウキョウ下町・エスノグラフィ入門・幸徳秋水伝・オタク文化とフェミニズムほか

ようやく暑さも和らいできたという噂が海外にも聞こえてきておりますがいかがお過ごしでしょうか。世の中が落ち着かないまま政党の党首も変わり次は総選挙と慌ただしい日々ですが、たまには本を読んだりすると目先が変わっていいと思います。というわけで今…

「権威」と「権力」についてSFで考える(自作宣伝です)

私事で恐縮ですが…… なぜ「権力」を描いたSFが多いのか 「権力」とは似て非なる、「権威」というテーマ 創作紹介 関連ブックガイド 私事で恐縮ですが…… Christ Church Melaka このたび、日本SF作家クラブと株式会社ピクシブが主催するSFコンテスト、「日本SF…

汀こるもの『最強の毒』 今すぐ読んでほしい、清冽なクィア時代劇ミステリ

メフィスト賞出身作家による、本草学者と見習い同心のバディ・ミステリ 最強の毒 本草学者の事件帖 (角川文庫) 作者:汀 こるもの KADOKAWA Amazon 今回紹介する『最強の毒』は、近年新刊を続々と刊行している、異色のメフィスト賞出身作家・汀こるものによる…

奈落の新刊チェック 2024年8月 海外文学・SF・現代思想・哲学・歴史・取るに足りない細部・危険なトランスガール・現代ゴシック小説・水晶宮・無支配の哲学・アメリカ革命ほか

そろそろ酷暑も和らいできたかと思いますがみなさまいかがお過ごしでしょうか。SNSでは今日もいろんな話題が高速で展開されておりますが、本を読むことでより「遅い」言葉をじっくり摂取することも大事かと思われます。レッツ・ゲット・遅れ。というわけで気…

森元斎『アナキズム入門』 軽快に語られる、リアルな生き方としてのアナキズム

人々が助け合って生きてゆくという思想 アナキズム入門 (ちくま新書) 作者:森元斎 筑摩書房 Amazon 森元斎『アナキズム入門』は、2017年に刊行されたちくま新書。著者はアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの研究を専門とし、グレアム・ハーマンの翻訳を手…

津原泰水『バレエ・メカニック』 幻想と技巧の傑作都市SF

幻覚に襲われる東京と、眠り続ける少女 バレエ・メカニック (ハヤカワ文庫JA) 作者:津原 泰水 早川書房 Amazon 今回は、私にとってのベストSF小説のひとつを紹介したい。津原泰水の『バレエ・メカニック』だ。とはいうものの、実はこの小説を紹介する自信…

奈落の新刊チェック 2024年7月 海外文学・SF・現代思想・哲学・歴史・ベル・ジャー・歌う船・他なる映画と・バトラー入門・アナキズムと哲学・すき間の哲学・サンスクリット入門ほか

いよいよ夏本番となりましたが、みなさま日傘は利用されておりますでしょうか。あるとないとでは大違いですのでぜひご利用くださいませ。そして世界と人生の苛酷な日差しから身を守るためにはやっぱり読書ですよね。(無理矢理) というわけで7月刊行の面白…

飯盛元章『暗黒の形而上学』 ハーマン、メイヤスーとともに探る、哲学の破壊的魅力

理解を超えたものの魅力 暗黒の形而上学:触れられない世界の哲学 作者:飯盛 元章 青土社 Amazon 『暗黒の形而上学 触れられない世界の哲学』は、2020年に哲学者ホワイトヘッドの研究書『連続と断絶──ホワイトヘッドの哲学』でデビューした飯盛元章の2冊目の…

近藤銀河『フェミニスト、ゲームやってる』 多様なゲームを楽しみ、同時に批評すること

マイノリティの経験を反映したインディーゲームの世界 フェミニスト、ゲームやってる 作者:近藤銀河 晶文社 Amazon 近藤銀河『フェミニスト、ゲームやってる』はウェブメディア「Wezzy」での連載をまとめたもので、これまで様々なメディアや書籍に寄稿してき…

奈落の新刊チェック2024年6月 海外文学・SF・現代思想・歴史・百年の孤独・台湾文学・異族・非美学・インターセクショナリティ・シュペーア・ビックリハウスほか

そろそろ日本は暑くなってきたようですがいかがお過ごしでしょうか。熱中症対策にはやっぱり涼しい場所での読書が一番ですよね。『百年の孤独』も文庫化したし…… しかし読書に熱中しすぎて水分補給を忘れるなどの危険もありますのでくれぐれもご注意ください…

台湾映画『オールド・フォックス 11歳の選択』の、「打包」(料理の持ち帰り)シーンを解説

金馬奨四冠映画の、気になる「打包」シーン oldfox11.com 現在公開中(2024年6月)の台湾映画『オールド・フォックス 11歳の選択』は、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の助監督を務めていた蕭雅全(シャオ・ヤーチュエン)が監督の、2023年の金馬奨(台湾の代…

トム・スタンデージ『ヴィクトリア朝時代のインターネット』 電信が発明された時代に見る、情報化社会の原型

世界を変えた電信の発明と普及のドキュメント ヴィクトリア朝時代のインターネット (ハヤカワ文庫NF) 作者:トム スタンデージ 早川書房 Amazon 英国のジャーナリスト・作家で、現在は「エコノミスト」誌の編集に携わるトム・スタンデージによる『ヴィクトリ…

木澤佐登志『闇の精神史』 目指すべき「未来」のイメージを、失われた過去の中に探る遍歴

ユートピア的な想像力を取り戻す 闇の精神史 (ハヤカワ新書) 作者:木澤 佐登志 早川書房 Amazon 木澤佐登志は、2019年に立て続けに刊行した著書『ダークウェブ・アンダーグラウンド』『ニック・ランドと新反動主義』によって注目を集めた気鋭の書き手だ。今…

奈落の新刊チェック2024年5月 海外文学・SF・現代思想・歴史・野球SF・関心領域・フェミニスト、ゲームやってる・理性の呼び声・ドゥルーズと芸術・写真文学論・SMの思想史ほか

こんにちは。日本はそろそろ夏の気配がしてきた頃合でしょうか。相も変わらず無数の新刊から面白そうなものをピックアップしているのですが、このリストを作る効用として、あまりの量ゆえに「読みたい本を全て読めないのが悲しい」みたいな感情が雲散霧消す…

ベンヤミン「歴史の概念について」 忘れられた過去を「救済」するための哲学

ベンヤミンの歴史哲学 ベンヤミン・アンソロジー (河出文庫) 作者:ヴァルター・ベンヤミン 河出書房新社 Amazon ヴァルター・ベンヤミンには未完成のまま残された文章が多くある。それはユダヤ人である彼がナチスに追われドイツを脱出せざるを得ず、そして亡…

2.5次元ミュージカルとしての『ジギー・スターダスト』 架空のキャラクターとして歌うということ

架空のキャラクターを演じるデヴィッド・ボウイ ジギー・スターダスト アーティスト:デヴィッド・ボウイ ワーナーミュージックジャパン Amazon 以前、いわゆる名盤と呼ばれるような、ロックやポップスの歴史的に有名なアルバムをひととおり聴いてみた時期があ…

奈落の新刊チェック 2024年4月 海外文学・SF・現代思想・歴史・ファンタスマゴリィ・羅刹国通信・暗黒の形而上学・ロシア宇宙主義・サルトル・古代技術・読書と暴動・セカイ系ほか

楽しいゴールデンウィークももう終わりですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。本は読めるコンディションの時とそうでない時がありますが、新刊は無情に刊行され続け、ちょっと待ってくれという気もしますがまあ後から読んでも特に差し支えはないかと思われ…

スティーブ・ロジャースはなぜ困った顔をしているのか 生贄としてのキャプテン・アメリカ

MCUとキャプテン・アメリカについてまとめてみる マーベル公式サイトより なんとなく、どこかの時点で自分にとってのMCUについてまとめておこうと思っていて、しかしずっと継続して作品が出てくるのでまとめるタイミングが難しかったのだが、最近自分の中で…

波戸岡景太『スーザン・ソンタグ 「脆さ」にあらがう思想』 知性とバッシングが衝突する地点で考える

一味違うソンタグの入門書 スーザン・ソンタグ 「脆さ」にあらがう思想 (集英社新書) 作者:波戸岡 景太 集英社 Amazon 波戸岡景太『スーザン・ソンタグ 「脆さ」にあらがう思想』は、ソンタグの著書『ラディカルな意志のスタイルズ』の翻訳も手がけた著者に…

ジーン・ウルフ『デス博士の島その他の物語』 謎に満ちた語りと美しい文章に魅せられる技巧派SF短編集

「未来の文学」シリーズの定番短編集 以前このブログでジーン・ウルフの傑作SF『ケルベロス第五の首』(およびそれを含む国書刊行会「未来の文学」シリーズ)を紹介したことがあるが、同シリーズから出ている、同じくジーン・ウルフの短編集『デス博士の島そ…

奈落の新刊チェック 2024年3月 海外文学・SF・現代思想・哲学・嘘つき姫・ブルックナー譚・見ることの塩・少女小説とSF・アンチ・ジオポリティクス・ゾンビの美学・ピラネージほか

暑くなったり寒くなったりしつつ早いもので世の中は新年度ですが、まだまだ旧年度の新刊が睨みを利かせています。年度の切れ目など、人類そして宇宙の歴史の前では何の意味も持たぬ区切りにすぎない……人類の営みとは……などと紋切り型の詠嘆をたわむれに捻り…

丹下和彦『ギリシア悲劇 人間の深奥を見る』 理性の価値と、その困難を描いた普遍的な物語

ギリシア悲劇への入門に最適の新書 ギリシア悲劇 人間の深奥を見る (中公新書) 作者:丹下和彦 中央公論新社 Amazon 丹下和彦『ギリシア悲劇 人間の深奥を見る』は、2006年刊行の中公新書。著者は1942年生まれで古典学を専門とし、多くのギリシア悲劇を翻訳し…

中井亜佐子『エドワ-ド・サイ-ド ある批評家の残響』 理論に新しい生を与える批評意識

『オリエンタリズム』の批評家サイードについて 中井亜佐子は英文学、特にコンラッドをはじめとしたモダニズム期のものを専門とする研究者で、以前も当ブログで著書を紹介したことがある。 pikabia.hatenablog.com 今回紹介するのは、上記『〈わたしたち〉の…

フィッツジェラルドの短編集はどれを買えばいい? 文庫・ライブラリー収録作ガイド

フィッツジェラルドの短編集が多い! 1.村上春樹訳以外のもの 2.村上春樹訳のもの 収録作一覧表 フィッツジェラルドの短編集が多い! 『グレート・ギャツビー』で知られる作家スコット・フィッツジェラルドについては弊ブログでも二度紹介し、どちらの記…

奈落の新刊チェック 2024年2月 海外文学・SF・現代思想・歴史・恐るべき緑・ルバイヤート・カストロの尻・射手座の香る夏・近代日本の身体統制・日本アナーキズム・サンリオ出版大全ほか

そろそろ暖かくなってきたりそうでもなかったりする今日この頃ですがいかがお過ごしでしょうか。中華圏でも旧正月が終わってようやく新年が始まっております。最近は出版社や書店がニュースの主役になることもなんだか多く、それぞれの役割がいろんな方向か…