もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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奈落の新刊チェック 2024年2月 海外文学・SF・現代思想・歴史・恐るべき緑・ルバイヤート・カストロの尻・射手座の香る夏・近代日本の身体統制・日本アナーキズム・サンリオ出版大全ほか

そろそろ暖かくなってきたりそうでもなかったりする今日この頃ですがいかがお過ごしでしょうか。中華圏でも旧正月が終わってようやく新年が始まっております。最近は出版社や書店がニュースの主役になることもなんだか多く、それぞれの役割がいろんな方向から問われているなあと感じつつ2月刊行の面白そうな新刊をまとめました。

 

韓国の現代文学を代表する作家の一人による、脱北者の青年を主人公とする小説。他の邦訳書に『光の護衛』『天使たちの都市』など。訳者はほかにチョン・ヨンジュン幽霊』を手掛ける。

 

河出文庫の斎藤真理子訳韓国文学シリーズがまた一冊。数々の文学賞を受賞しているチョン・イヒョンの日本オリジナル作品集(単行本は2020年)。邦訳書はほかに『マイスウィートソウル』『きみは知らない』など。

 

オランダ生まれのチリの新鋭による、ブッカー賞、全米図書賞ノミネートの話題作が邦訳。科学史に着想を得た奇想小説のようです。訳者はボラーニョをはじめとしたスペイン語文学を手掛け、近訳書に『蛇口 オカンポ短篇選』『俺の歯の話』など。

 

奇想のSF作家として知られるアヴラム・デイヴィッドスンの代表作が14年の時を経て文庫化復刊。邦訳はほかに『どんがらがん』がある。翻訳はアシモフ、ホーガン、キングなど手掛けるベテラン。

 

カミュの1939年の随筆集の新訳。訳者は『賽の一振り』などマラルメの翻訳者であり、フランスで国家功労勲章シュヴァリエ章を授与されている。訳者近著に『今宵はなんという夢見る夜 金子光晴と森三千代』『ノーベル文学賞【増補新装版】――「文芸共和国」をめざして』など。

 

かのエーリッヒ・ケストナーによる、独裁政治を批判した戯曲が岩波文庫に登場。訳者はドイツ語文学を多く手掛け、同月に光文社古典新訳文庫から『若きウェルテルの悩み』の新訳も。ほか近訳書にネレ・ノイハウス『友情よここで終われ 刑事オリヴァー&ピア・シリーズ』、ユーリ・ツェー『人間の彼方』、シーラッハ『』など。

 

オマル・ハイヤームによるペルシアの古典詩『ルバイヤート』の、フランツ・トゥーサンによるフランス語訳からの邦訳。訳者は現在、光文社古典新訳文庫プルーストの新訳(『失われた時を求めて 1~第一篇「スワン家のほうへI」~ 』ほか)を刊行中の高遠弘美。訳者近著に『物語 パリの歴史』など。

 

松浦寿輝の、谷崎潤一郎賞ドゥマゴ文学賞を受賞した2007年の小説が上下巻で文庫化。近作に『香港陥落』『無月の譜』『わたしが行ったさびしい町』など。

 

金井美恵子による、批評、小説、フォトコラージュを合わせた作品集。2017年の単行本を文庫化。近年は姉妹の共著『シロかクロか、どちらにしてもトラ柄ではない』『鼎談集 金井姉妹のマッド・ティーパ-ティーへようこそ』が出ている。

 

創元SF短編賞受賞作家の松樹凛による初めての単行本。受賞作である表題作を含む作品集。

 

アガサ・クリスティー賞優秀賞を『ヴェルサイユ宮の聖殺人』で受賞しデビューした作家の二作目。文庫オリジナル。前作から続くシリーズで、ブルボン朝のフランスを舞台に公妃と軍人のバディが事件を捜査する。

 

すばる文学賞受賞の言葉が話題となった大田ステファニー歓人の鳴り物入りのデビュー作。

 

文学、芸術、思想哲学から神話や魔術まで語り尽くす種村季弘のベスト・コレクションが文庫で登場。「吸血鬼幻想」「怪物の作り方」「K・ケレーニイと迷宮の構想」「文字以前の世界―童話のアイロニー」などなど垂涎の文章を収録。編者は教え子でもある芥川賞作家の諏訪哲史

 

パリで登場し、日本には宝塚歌劇東宝レヴューという形で輸入された「レヴュー」という形式が、いかに女性の身体を統制するイデオロギーとなったか。著者はこれが初の著書で、博士論文を書籍化したもの。

 

音楽メディアにも執筆する英国在住の作家による変わり種のデリダ本。出版元も音楽関連書で知られるele-king BOOKS。

 

「NHK100分de名著」でリチャード・ローティ『偶然性・アイロニ-・連帯』の紹介を担当した著者による本格ローティ論。著者近著に『〈公正(フェアネス)〉を乗りこなす』『バザールとクラブ』など。

 

ドイツ史、現代史を専門としジェンダー関連の著書・訳書の多い著者によるジェンダー史入門。著者近著に『ローザ・ルクセンブルク: 戦い抜いたドイツの革命家』、共著に『「ひと」から問うジェンダーの世界史 第2巻 「社会」はどう作られるか?—家族・制度・文化』、訳書に『戦場の性 独ソ戦下のドイツ兵と女性たち』など。

 

2020年に『市民の義務としての〈反乱〉:イギリス政治思想史におけるシティズンシップ論の系譜』でデビューした著者による政治思想入門。

 

幸徳秋水大杉栄を始めとした日本のアナーキズムの歴史をたどる大著が登場。著者近著に『明治のナイチンゲール 大関和物語』『社会運動のグローバルな拡散: 創造・実践される思想と運動』『アナキズムを読む 〈自由〉を生きるためのブックガイド』など。

 

三井財閥の原点のひとつであり、日本の銀行業のさきがけでもある、江戸時代に始まった両替店の歴史。著者には他に『近世畿内の豪農経営と藩政』がある。

 

近年は英語圏での日本文学ブームが起こっているが、歴史上、日本の小説の翻訳には様々な問題があったという。著者はこれが初の著書のようです。

 

1980年代まで続いていたサンリオの出版事業を網羅した論集が登場。サンリオSF文庫の話も載ってます。

 

北上次郎による1993年刊行の冒険小説論が30年越しに文庫化。

 

どっちも知らない建物だと思ったら、「「幻の建築計画」を巡る戦後史」とのこと。著者は他に『高層建築物の世界史』も書いてます。

 

著者はジュンク堂書店難波店店長で著書多数。独立系書店・個人書店とは大きく違う役割を持つ大型書店における葛藤の記録だろう。近著に『書物の時間(多摩DEPO11): 書店店長の想いと行動』『書店と民主主義: 言論のアリーナのために』など。

 

ではまた来月。