もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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奈落の新刊チェック 2023年1月 海外文学・SF・現代思想・ツェラン・浮遊・香港陥落・生命と身体・ラカン・消費と労働・地霊ほか

さて2023年も早くもひと月が過ぎまして、新年の新刊もバシバシ刊行されております。紹介すれどもすれども湧き出る面白そうな新刊。しかし世は出版不況……読み切れなくても買い支えねばなりません。そう、日本の出版文化の未来のために…… というような崇高な使命を掲げつつ1月刊行の新刊チェックです。

 

多和田葉子がドイツ語で書いた小説の日本語訳。コロナ下のベルリンでツェランを読む話らしいです。翻訳した関口裕昭はツェラン研究者で、「世界文学の旗手とツェラン研究の第一人者による「注釈付き翻訳小説」」とのこと。

 

芥川賞作家・高山羽根子の最新長編は、主人公が祖父のルーツを辿って日本統治下の台湾に行き着き、自らも台湾に向かうという話のようです。高山羽根子については過去記事もどうぞ。

高山羽根子『オブジェクタム/如何様』 解けない謎、として描かれる世界 - もう本でも読むしかない

高山羽根子『暗闇にレンズ』を読んで震えあがった。 - もう本でも読むしかない

 

 

高山羽根子と同時に芥川賞を受賞した遠野遥の最新長編は、ホラーゲームを題材にした小説。こちらも過去記事あります。

遠野遥『破局』 強すぎ主人公の機械的精神が味わう性の苦悶 - もう本でも読むしかない

 

1941年の香港のホテルを舞台に、日中英の3人の男が交錯するという松浦寿輝歴史小説。面白そう。

 

2002年単行本、2004年文春文庫で出ていたエドワード・ケアリーのデビュー作が創元文芸文庫より復刊。翻訳は海外文学好きにはおなじみ古屋美登里。

 

2020年に同シリーズより刊行された『メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち』に始まるシリーズ2作目の前編。ヴィクトリア朝ロンドンで暮らすモンスター娘たちがウィーンで活躍します。全3部作とのこと。翻訳はダイアナ・ウィン・ジョーンズなどファンタジーを多く手掛ける原島文世。

 

英国幻想文学大賞のホラー部門、オーガスト・ダーレス賞をデビュー作以来三作連続で受賞したという作家の初の邦訳。ちなみにこれが三作目。訳者の中谷友紀子はホラー、ミステリ、ファンタジーなどいろんなジャンルの英語小説を訳している。

 

日本でも多くの小説が刊行され、多数の受賞歴をもつ閻連科の2011年の長編。収容所で強制労働させられる知識人たちがやがて飢饉に襲われ……という物語らしい。訳者の桑島道夫には編著『中国新鋭作家短編小説選 9人の隣人たちの声』などもある。

 

昨年からの刊行ペースがすさまじい檜垣立哉ですが、タイトルが『生命と身体』、副題が「フランス哲学論考」となればこの本こそが本丸なのか?と盛り上がってしまう一冊。とはいえ他の近刊も全部気になります。編著も合わせて『バロックの哲学』『ベルクソン思想の現在』『日本近代思想論』『構造と自然』などなど。

 

ベンヤミン最晩年のエッセイ『1900年ごろのベルリンの幼年時代』についての重厚な研究書で、著者はこれが初の著書のもよう。それにしても「1938年パリ脱出の直前に完成稿がジョルジュ・バタイユに預けられたのち、1981年にジョルジュ・アガンベンによってパリ国立図書館で発見された。」という発見の経緯は何度聞いてもすごい。

 

1990年に社会批評社から出ていた古典の文庫化復刊。著者はナチズム・ホロコースト研究の大家で、他に『アウシュヴィッツと表象の限界』の邦訳あり。訳者の田中正人は他にフランス革命関連の本も多く訳しているようです。

 

アウシュヴィッツで残された写真をめぐる『イメージ、それでもなお』に続くジョルジュ・ディディ=ユベルマンの論集。同系列の論文をまとめた日本独自編集の本とのこと。訳者の江澤健一郎は同著者のほかにバタイユも手掛け、また著書に『中平卓馬論』などもあり。

 

これは珍しい、絵画のタイトルについての本格的な研究書。著者はこれが初の邦訳で、イェール大学で文学・歴史・芸術を教えているとのこと。訳者の田中京子は同じくみすず書房で文学関連書をいろいろ訳しています。

 

講談社選書メチエの「極限の思想」シリーズからラカンが登場。著者は精神分析を専門とする研究者で、近著に『女は不死である: ラカンと女たちの反哲学』など。

 

ホルクハイマー&アドルノによるフランクフルト学派の一番有名な本『啓蒙の弁証法』を徹底解剖した論集。編者は上野成利、高幣秀知、細見和之

 

古代ギリシアの哲学者パルメニデスの文献を解読する本のようですが、副題も内容説明もなんだかハッタリが利いていて気になります。著者は1938年生まれの大ベテランで、近年の著書に『ゼノン 4つの逆理』『ギリシア思想のオデュッセイア』など。

 

最も有名なキリスト教の異端のひとつかもしれないグノーシス主義に関する2009年の本格的研究が復刊。宗教学者である著者の代表作『オウム真理教の精神史』の増補版も同時刊行。

 

労働の問題について書かれた本は多いが、労働と消費文化との関係にフォーカスした本は珍しいかもしれない。気になります。編者は永田大輔、松永伸太朗、中村香住。

 

明治後期、日露戦争前後に起こった日本社会の変容が読みやすい新書に。著者は近代日本の歴史や文学について膨大な著書があるが、近刊に『満洲国: 交錯するナショナリズム』『鴨長明 ──自由のこころ』『歴史と生命: 西田幾多郎の苦闘』など。

 

それぞれの土地とそこに住んだ人々にフォーカスした、日本近代史についてのエッセイとのこと。著者はもともと経済思想が専門で、『自由と秩序 - 競争社会の二つの顔』『文芸にあらわれた日本の近代―社会科学と文学のあいだ』など多彩な分野で受賞作がある。近著に『経済社会の学び方』『社会思想としてのクラシック音楽』など。

 

植民地主義時代の東南アジアにおける、感染症とそれへの対応はどのようなものだったか。医療から見た歴史の本。著者は他に『フィリピン社会経済史―都市と農村の織り成す生活世界』を刊行している。

 

ではまた来月。