もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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奈落の新刊チェック 2023年9月 海外文学・SF・現代思想・歴史・方形の円・厳冬の棺・悪の凡庸さ・革命と住宅・暗闇に戯れて・絵画の解放・民藝ほか

記録的な猛暑が終わり、ようやく涼しくなって来たと聞いていますがみなさまいかがお過ごしでしょうか。こちらは南国に住んでいるのでよくわかりませんが、さぞかし本を読むのに相応しい気候になってきたのではないかと想像しております。もう本でも読むしかない!

というわけで9月刊行の面白そうな本をまとめました。

 

ペルーのノーベル賞作家バルガス=リョサスラップスティックコメディが文庫復刊(原著2004年国書刊行会)。翻訳は南米文学ファンにはおなじみ野谷文昭

 

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こちらも南米文学。『夜のみだらな鳥』で知られるチリの作家ホセ・ドノソの全短編をまとめた一冊。翻訳はこちらも南米文学を多数手がける寺尾隆吉。

 

ルーマニアの作家ギョルゲ・ササルマンによる、36の架空都市の物語をおさめた奇想SF。なんとル=グインが英訳を手がけた作品とのこと。2019年の単行本の文庫化で、訳者はほかにミルチャ・エリアーデなども担当。

 

さあ、気ちがいになりなさい』などで有名な奇想ミステリ/SF作家ブラウンの短編集。『短編ミステリの二百年』シリーズの編者小森収によるセレクト。

 

「中国の密室殺人の王様」と呼ばれているらしい孫沁文による、上海を舞台にした密室殺人ミステリ。訳者は他にも華文ミステリをいろいろ翻訳しているようです。

 

文藝春秋から幻想短篇アンソロジーとは珍しいと思ったら、雑誌『文學界』に掲載された作品を集めたものとのこと。こういう形の本も増えるといいですね。豪華執筆陣です。

 

怪作『皆勤の徒』で知られるSF作家酉島伝法の2020年の単行本が文庫化。書誌情報に「奇才・酉島伝法がはじめて人間を主人公にした作品集!」とあって笑いました。

 

「悪の凡庸さ」というのはアーレントアイヒマンについて形容したという有名なフレーズだが、この言葉の解釈については誤解が多いという。この問題についての、ベストセラーとなった岩波ブックレット検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』の著者二名の編著による論集。

 

革命と住宅

革命と住宅

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社会主義の理念を表現するために設計されたソビエト/ロシアの建築や住宅が実際にはどのようなものとなったか。著者はこれまでにも『天体建築論: レオニドフとソ連邦の紙上建築時代』『都市を上映せよ: ソ連映画が築いたスターリニズムの建築空間』などロシアと建築・芸術に関する注目書を刊行。

 

ドゥルーズ没後の著作集の数々を編集したドゥルーズの弟子による、なんとフィリップ・K・ディック論。他に『ちいさな生存の美学』『ドゥルーズ 常軌を逸脱する運動』の邦訳あり。訳者はドゥルーズの翻訳が多い堀千晶で、近著に『ドゥルーズ 思考の生態学』がある。

 

デリダやナンシーの翻訳を手掛け、レヴィナスに関する著作の多い著者による、構造主義から現在までのフランス哲学をまとめた新書。著者近著に『レヴィナスの企て: 『全体性と無限』と「人間」の多層性』、編著に『個と普遍: レヴィナス哲学の新たな広がり』など

 

臨床医でもある著者による、フーコーの思想を手がかりにした精神医学批判の書。これが初めての著作のようです。

 

科学哲学についての著作を多数刊行している著者による、技術の哲学の概論が文庫で。近著に『味わいの現象学』、訳書に『魂から心へ 心理学の誕生』など。

 

ロンドン在住のサイエンスライターによる、悪魔とも呼ばれる天才のベストセラーとなった大型評伝。訳者は『数式なしで語る数学』『AI新生』など自然科学系の翻訳多数。手が出ないという方には最近出た新書の『フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔』もあります。

 

ノーベル賞作家トニ・モリスンによる文学批評の代表作が岩波文庫から。訳者はアーヴィングやブコウスキーを手掛ける都甲幸治で、近著には『教養としてのアメリカ短篇小説』『引き裂かれた世界の文学案内—境界から響く声たち』など。

 

韓国文学の翻訳で近年大活躍している斎藤真理子の、韓国文学にとどまらない内容の読書エッセイ集。近著には『韓国文学の中心にあるもの』など。

 

明治期における文学や小説をめぐるメディア状況から、現代へと通じる歴史を見直す。著者近著に『福地桜痴:無駄トスル所ノ者ハ実ハ開明ノ麗華ナリ』、編著に『芥川竜之介紀行文集』など。

 

美術史家、北澤憲昭の『眼の神殿 ――「美術」受容史ノート』と並ぶ代表作が文庫復刊。美術とそうでないものの境界を問う美術史。

 

20世紀アメリカで興隆した、フランク・ステラなどカラーフィールド絵画についての本格批評。著者の共著に『カラーフィールド 色の海を泳ぐ』、編著に『宇佐美圭司 よみがえる画家』がある

 

日本を代表する美術史家、高階秀爾による、ヨーロッパの近代芸術をまとめる大著。近年は『西洋の眼 日本の眼』『ゴッホの眼』『世紀末の美神たち』などの新装版も続々刊行中。

 

現代の服飾でデザインにも多大な影響を残す中世ヨーロッパの色彩について。著者は服飾史が専門で他に『黒の服飾史』、訳書に『写真でたどる 美しいドレス図鑑』など。

 

今年建国100年のトルコの歴史を、首都アンカラを中心に辿る新書。著者は現地在住の研究者で、近著に『教養としての中東政治』『戦略的ヘッジングと安全保障の追求: 2010年代以降のトルコ外交』『クルド問題 非国家主体の可能性と限界』など。

 

次期大河ドラマ時代考証を担当する著者による新書。著者近著に『藤原氏の研究 普及版』『平氏―公家の盛衰、武家の興亡』『王朝再読 (王朝時代の実像)』など。また全16巻の『現代語訳 小右記』を編纂している。

 

柳宗悦が自ら執筆した民藝運動の基本書に、関連する15編の論考を追加収録した決定版が文庫で。

 

大正デモクラシーの後、抑圧された時代に抵抗の思想を残した人々を辿る2017年の単行本が文庫化。著者は日本の近代文学アナキズム、『青踏』関連、あるいは市井の人々への聞き書きからエッセイまでの多彩な本を刊行している。近著に『聞き書き・関東大震災』『アジア多情食堂』『聖子——新宿の文壇BAR「風紋」の女主人』、編著に岩波文庫伊藤野枝集』など。

 

中国の首都、北京の歴史を古代にまで遡る。著者は他に『明清都市商業史の研究』『近世東アジア比較都城史の諸相』など専門的な研究書を刊行。

 

文字のような「線形的コード」に代わって、「テクノコード」と呼ばれる新たなコードが人間を支配するようになったとするメディア論の古典が文庫化。ほかに『写真の哲学のために: テクノロジーとヴィジュアルカルチャー』『デザインの小さな哲学』などの邦訳あり。訳者はボルツやルーマンなどドイツの思想・哲学を手がけ、『「権利のための闘争」を読む』『新装版 〈法〉の歴史』などが近年復刊されている。

 

ヴァーグナーの「ドイツ」: 超政治とナショナル・アイデンティティのゆくえ』などドイツ音楽についての本を書いてきた美学者の著者による、デジタルゲーム研究の決定版書籍が登場。

 

邦訳のある『アニメ・マシーン―グローバル・メディアとしての日本アニメーション―』の著者による、こちらもアニメやゲームについてのメディア研究。訳者はカルチュラルスタディーズの分野で知られ、近年は『モノたちの宇宙: 思弁的実在論とは何か』『非唯物論: オブジェクトと社会理論』などの新しい実在論関連の翻訳も多い。

 

「事務の営みから人間のあり方を再考する、画期的エッセイ」ということでこれは気になる。著者は着眼点が独特な英文学者で、近著に『英文学教授が教えたがる名作の英語』『理想のリスニング: 「人間的モヤモヤ」を聞きとる英語の世界』『善意と悪意の英文学史: 語り手は読者をどのように愛してきたか』など。

 

 

以上、ではまた来月。