もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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近代

フィッツジェラルドの短編集はどれを買えばいい? 文庫・ライブラリー収録作ガイド

フィッツジェラルドの短編集が多い! 1.村上春樹訳以外のもの 2.村上春樹訳のもの 収録作一覧表 フィッツジェラルドの短編集が多い! 『グレート・ギャツビー』で知られる作家スコット・フィッツジェラルドについては弊ブログでも二度紹介し、どちらの記…

李箱『翼 李箱作品集』 植民地下朝鮮のモダニストによる、近代小説の冒険

1910年ソウル生まれの作家の新訳作品集 翼~李箱作品集~ (光文社古典新訳文庫) 作者:李 箱 光文社 Amazon 李箱(イ・サン)は1910年、日本統治下の朝鮮に生まれ、27歳の若さで世を去った詩人/作家だ。ソウル(当時の名は京城)に生まれ、日本語で教育を受…

どれから読む?稲垣足穂・文庫ガイド──『一千一秒物語』『天体嗜好症』『少年愛の美学』

稲垣足穂の各社文庫の収録作を紹介 稲垣足穂と言えば、『一千一秒物語』でおなじみ大正から昭和初期の文学者、天体と飛行と無機物に憧れるモダニスト、横光利一や初期の川端康成と並ぶ新感覚派の一員、「A感覚とV感覚」を発表した独自のエロティシズムの研究…

樋口陽一『リベラル・デモクラシーの現在』 重鎮が語る、立憲主義の普遍性

戦後を代表する憲法学者の最新講演集 リベラル・デモクラシーの現在 「ネオリベラル」と「イリベラル」のはざまで (岩波新書) 作者:樋口 陽一 岩波書店 Amazon 改めて憲法に関する本が読みたいなと思い、そしてどうせならやはり定番著者の、しかも最近のもの…

嘉戸一将『法の近代 権力と暴力をわかつもの』 何が法律の「正統さ」を保証するのか

法学の立場から国家の役割を問う新書 法の近代 権力と暴力をわかつもの (岩波新書) 作者:嘉戸 一将 岩波書店 Amazon 私たちはふだん法律に従って生活しているが、ではその法律、あるいは法律を執行する国家が「正統なもの」であると、どのように納得している…

張愛玲「傾城の恋」 近代中国の葛藤を織り込んだ傑作ラブロマンス

中国の現代文学を代表する作家 張愛玲(ちょう・あいりん/アイリーン・チャン)は、魯迅と並んで中国の現代文学を代表すると言われる作家だ。1920年に上海で生まれ、1944年に初の著書『伝奇』を刊行するやいなや大ベストセラーとなったという。後年アメリカ…

シャンタル・アケルマン『オルメイヤーの阿房宮』 コンラッドのデビュー作を映画化

再評価の進む監督による、植民地小説の映画化 オルメイヤーの阿房宮(字幕版) スタニスラス・メラール Amazon 先日、ジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』を紹介する記事(こちら)を書いている際、コンラッドの最初の小説である『オルメイヤーの阿房宮』が2010…

ジョゼフ・コンラッド『闇の奥』 植民地政策と密林の恐ろしさを、突き放した視線で描く

船乗り作家による、時代を超えた小説 闇の奥(新潮文庫) 作者:ジョゼフ・コンラッド 新潮社 Amazon ジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』は1899年にイギリスで発表された小説で、近代文学の名作と名高く、またポストモダン文学の先駆とも言われる、時代を越え…

多木浩二『未来派 百年後を羨望した芸術家たち』機械と速度を賛美した芸術運動

「未来派」についての数少ない入門書 「未来派」をご存知だろうか。20世紀初頭のイタリアで起こった前衛芸術で、急速に発達する工業化・都市化・機械化を反映した総合的(詩・絵画・彫刻・建築・音楽含む)な芸術運動だ。後続するダダやシュルレアリスム、ロ…

太宰治『斜陽』 没落貴族として、変わりゆく世界を生きる

社会の後戻りできない変化を描いた世界的ベストセラー 昨年あたりから、英語圏で太宰治の『人間失格』(英題『No Longer Human』)がベストセラーになっているというニュースをよく見聞きするわけだが、これと並んでよく売れているというのが『斜陽』(英題…

『グレート・ギャツビー』冒頭の翻訳3種類を比べてみた 野崎孝・小川高義・村上春樹訳

『ギャツビー』の書き出しを読み比べてみる フランシス・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』と言えば、アメリカ文学を代表するとまで言われる小説だ。1925年に刊行され、アメリカの「狂乱の20年代」を象徴する作品とも言われる。語り手…

中井亜佐子『〈わたしたち〉の到来』 三人のモダニズム作家から読む、「歴史」の書かれかた

コンラッド、ウルフ、C・L・R・ジェームスを読む 中井亜佐子の『〈わたしたち〉の到来』は、主に三人の作家についての文芸批評である。 その三人はいずれも20世紀初頭のモダニズムの時代に活動し、英語で作品を発表した作家たちだ。 〈わたしたち〉の到来 英…

フィッツジェラルド『若者はみな悲しい』 消費社会の魅惑と呪い

『グレート・ギャツビー』と同時期の短編集 今回は光文社古典新訳文庫から出ている、フランシス・スコット・フィッツジェラルドの短編集『若者はみな悲しい』を紹介しよう。翻訳は、以前の記事で紹介した同文庫のポーも翻訳している小川高義。 若者はみな悲…

『ゴールデンカムイ』 透明な国家と機械化した二階堂浩平

『ゴールデンカムイ』に描かれなかったもの 以前私は下記の記事で、野田サトル『ゴールデンカムイ』には「世界の全体」が描いてある、と書いた。それは「例えば「愛」と「欲望」と「暴力/権力」と「生命」と「歴史」とか」の、世界を構成する諸要素が、物語…

中谷礼仁『実況・近代建築史講義』は、美しい構成を持った理想的な講義の本だ

近代建築について知りたい! 私は建築に関してど素人なのだが、でも芸術の本を読んでいると建築のことがよく出てくるし、ちょっと建築、特に私は近代に関する本をよく読むので近代建築のことが知りたいなあと思っていた際にたまたま新刊で出ていたのがこの中…

ポーの傑作「アッシャー家の崩壊」のラストシーンが好きすぎる

まずは「アッシャー家の崩壊」をネタバレなしで紹介します。 アッシャー家の崩壊/黄金虫 (光文社古典新訳文庫) 作者:ポー 光文社 Amazon さてエドガー・アラン・ポーである。前回はポーの話をしようと思ったらそのあまりの邦訳のバージョンの多さについそち…

多木浩二『肖像写真』 ナダール、ザンダー、アヴェドンから読み解く、歴史の無意識

三人の肖像写真家 今回は、以前当ブログで『ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」精読』を紹介した多木浩二の本をもう一冊紹介しよう。 pikabia.hatenablog.com 今回取り上げる『肖像写真』(岩波新書)は、美術、写真、映画、建築など多彩な分野の批評を残…

文庫でポーを読もう! エドガー・アラン・ポーの文庫を徹底比較

ポーの文庫ってどれを買ったらいいの!? 私は御多分に洩れずエドガー・アラン・ポーのファンです。ミステリ、ホラー、ゴシック、SF、ファンタジーといったジャンル全てのルーツになっていると言っても過言ではない(やや過言)作家なので、そういうジャンル…

圀府寺司『ユダヤ人と近代美術』 決して単純化できない、ユダヤ人と美術の関係

これは何についての本か? ユダヤ人と近代美術 (光文社新書) 作者:圀府寺 司 光文社 Amazon 圀府寺司『ユダヤ人と近代美術』(光文社新書)だが、一言では説明しづらい本である。 これは「ユダヤ人に特有の美術」の本ではない。この本によればユダヤ人に特有…

國分功一郎『近代政治哲学』 民主主義にとって「主権」とは何か?

「主権」の歴史 近代政治哲学 ──自然・主権・行政 (ちくま新書) 作者:國分功一郎 筑摩書房 Amazon 今回は國分功一郎による2015年の新書『近代政治哲学 ──自然・主権・行政』(ちくま新書)を紹介する。 「近代政治哲学」と聞いても具体的に何の話なのかわか…

岩波文庫『カフカ短編集』で、『変身』だけじゃないカフカの魅力を堪能すべし

『変身』もいいけど…… カフカと言えばなんといっても『変身』が有名だが、私は他の短編の方が好きだ。 いや、もちろん『変身』は名作なのだが、なんというか……こう言ってしまっていいのかわからないのだが、その、わりと出オチっぽいというか…… こともあろう…

『久生十蘭短編選』で短編の超絶技巧を味わえ

精密に磨き上げられた短編小説世界 私はクラシックな日本文学に詳しい人間ではまったくないが、誰か好きな作家を一人挙げろと言われたら久生十蘭を挙げると思う。 久生十蘭短篇選 (岩波文庫) 作者:久生 十蘭 岩波書店 Amazon 1902年(明治35年)生まれのこの…

ベンヤミン入門におすすめの文庫はこれだ!多木浩二『「複製技術時代の芸術作品」精読』

この本がベンヤミン入門に最適だと思う理由 私はヴァルター・ベンヤミンがとても好きなのだが、何せ読みづらい文章を書く人なので、なかなか人に勧めづらい。 入門書もあまり出ていない。 そんな中で数少ない、「これを最初に読めばいいんじゃないかな……」と…

『ゴールデンカムイ』には「世界の全体」と、「映画のファンタスム」が描いてある。

「全部ある漫画」 別にこんなところで紹介しなくてもだいたいみんなもう読んでると思うのだが、野田サトル『ゴールデンカムイ』(集英社・ヤングジャンプコミックス)は本当に面白い漫画ですよね。 私はおそらくアニメ化記念の100話無料公開の時に読み始めた…