もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

,

奈落の新刊チェック 2023年8月 海外文学・SF・現代思想・歴史・奇病庭園・チク・タク・庭・人類学・ハイチ革命・遠野物語・関東大震災ほか

日本はまだまだ暑いようですがいかがお過ごしでしょうか。日除けと水分補給にはくれぐれもご注意くださいますよう。そろそろ読書の秋と言いたいところですがどうなんでしょうね。気になる本は秋を待たずに買ってしまうなり図書館にリクエストなりするのがいいかと思います。それでは8月分の気になる新刊チェックをどうぞ。

 

 

歌集『Lilith』、および『無垢なる花たちのためのユートピア』『月面文字翻刻一例』などの作品で注目される新鋭による長編幻想小説

 

蒸気駆動の少年』『ロデリック:(または若き機械の教育)』などの邦訳がある奇想SF作家スラデックのロボットSFが竹書房文庫から登場。SFや海外文学のサークル「カモガワ編集室」主宰の鯨井久志による翻訳。

 

2015年単行本の文庫化で、シャーリイ・ジャクスン賞を受賞した短編集。同作者は他にも『リリアンと燃える双子の終わらない夏』『ファング一家の奇想天外な謎めいた生活』が邦訳されている。訳者はウィングフィールドのフロスト・シリーズを始めとしてミステリの翻訳を多数手がける。

 

幻想文学・SF・ミステリの全てで高い評価を受けるジェフリー・フォードの、ネビュラ賞受賞作を含む短編傑作選。同シリーズで『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』も出ています。訳者はほかにル・グウィン作品び翻訳多数。

 

ドイツ・ロマン主義の作家ティークの1798年の代表作で、いわゆる「芸術家小説」の元祖とのこと。訳者はまさにこの本について書いた『ドイツ・ロマン主義と〈芸術家小説〉: ティーク『シュテルンバルト』の成立と性質』を同じく国書刊行会より出しています。

 

こちらは東京創元社の隔月刊行誌だが、以前出ていたSFアンソロジーGENESIS』の内容が今回からこちらに引き継がれることに。創元SF短編賞受賞作も載ってます。

 

ポルトガルの作家ペソアの評伝。著者はペソアの『新編 不穏の書、断章』などの翻訳の他、の近著に『サルトルのプリズム: 二十世紀フランス文学・思想論』『異貌のパリ1919‐1939―シュルレアリスム、黒人芸術、大衆文化』などがある。他の訳書にマリ・ジョゼ・モンザン『イメージは殺すことができるか』、サルトルイマジネール 想像力の現象学的心理学』など。

 

庭師かつ美学者であり、ジル・クレマン『動いている庭』の翻訳も手がける著者による庭園論。

 

人類学の入門書が講談社現代新書より。著者の近著には『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』『これからの時代を生き抜くための 文化人類学入門』『絡まり合う生命——人間を超えた人類学』などがある。インゴルド『人類学とは何か』『応答、しつづけよ。』の翻訳も。

 

2022年に発行された反トランス差別ZINEの増補書籍化。7月刊行の『トランスジェンダー入門』と合わせてどうぞ。

 

 

アートとフェミニズムに関する双方向的な入門書。著者の共著に『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ』がある。

 

当事者の経験を哲学的な観点からとらえるフェミニスト現象学についての論集。同出版社・同じ編者による『フェミニスト現象学入門―経験から「普通」を問い直す』が2020年に出ている。

 

アガンベンの「ホモ・サケル・プロジェクト」の一環である『王国と栄光』が新装復刊。権力と統治の神学的な起源を探求する。アガンベンの翻訳を多く手掛ける高桑和巳訳。

 

なんと「ブラウン神父」シリーズのG.K.チェスタトンによるトマス・アクィナス入門の古典とのこと。訳者の生地竹郎は故人で、この文庫は1976年に刊行された『G・K・チェスタトン著作集 6  久遠の聖者』からの抜粋らしい。

 

世界史上初の奴隷解放を成し遂げたハイチ革命についての本が岩波新書から。著者は他に『カリブからの問い―ハイチ革命と近代世界』『ハイチ革命とフランス革命』を刊行している。

 

十字軍として遠征した人々が各地で建国した十字軍国家についての貴重な入門書。著者は2020年に大部の『十字軍国家の研究―エルサレム王国の構造―』を刊行済。

 

10世紀の東フランクの王で、のちの神聖ローマ帝国の基礎を作ったオットー大帝について。著者は『オットー朝年代記』『紀元千年の皇帝: オットー三世とその時代』など他にも関連テーマでいろいろ書いている。

 

2008年単行本の新装版。イスラエルという国家とユダヤという民の間にある諸問題について。著者近刊に『パレスチナ/イスラエル論』『希望のディアスポラ: 移民・難民をめぐる政治史』など。

 

ご存じ遠野物語の全訳注版が文庫で登場。訳注を担当した新谷尚紀は『神社とは何か』『伊勢神宮と出雲大社 「日本」と「天皇」の誕生』『神社の起源と歴史』などの近著がある。

 

膨大な資料をもとに、関東大震災において発生した朝鮮人・中国人らに対する殺傷事件の全貌に迫る

 

なんと「索引」の歴史である。副題に「書物史を変えた大発明」とあるが確かにそうなのだろう。著者はイギリスの書物史・文学の専門家。訳者は『コード・ガールズ――日独の暗号を解き明かした女性たち』『世界で最も美しい問題解決法 ―賢く生きるための行動経済学、正しく判断するための統計学―』など自然科学も歴史も手がける。

 

建築設計を手掛ける著者による、全国の小規模書店の実測とスケッチを満載した本。

 

大塚英志の原点である、80~90年代の漫画批評を集めた文庫。批評史としても文化史としても重要だろう。

 

 

ではまた来月。