さて月も明けまして恒例の新刊チェックです。この記事のために見かけた書名を控えておくのですが、いざこれを書こうとすると発売が延期になっていることもしばしば。みなさま苦労して本を刊行されているのかと思います。面白い本をどんどん出してくれる著者翻訳者出版社のみなさまに感謝しつつ1月の気になる新刊を見てみましょう。
「チリの地震」が有名な19世紀ドイツの作家クライストの新訳短編集が岩波文庫より。訳者は他にベンヤミン、カール・クラウスなど手掛け、『映画に学ぶドイツ語』『現代メディア哲学 複製技術論からヴァーチャルリアリティへ』『「みんな違ってみんないい」のか? ──相対主義と普遍主義の問題』など近著も多数。
メキシコのノーベル賞作家パスの長編が22年ぶりに文庫で復刊(単行本は2002年書肆山田刊)。翻訳はおなじみ野谷文昭で、こちらの近著に『ラテンアメリカン・ラプソディ』など。
以前はヴィレッジブックスから出ていた、サリンジャーの代表的短編集の柴田元幸訳が文庫復刊。新潮文庫の野崎訳と読み比べよう。
歌人・作家の川野芽生による、芥川賞候補にもなった話題作。高校の演劇部を舞台にしたトランスジェンダーの物語。近作にエッセイ集『かわいいピンクの竜になる』、長編『奇病庭園』など。
デビュー作『Schoolgirl』も芥川賞候補となっていた九段理江の芥川賞受賞作。執筆にChatGPTを使用しているということでも話題。
『オリエンタリズム』を著したポストコロニアリズムの旗手であり、パレスチナ解放運動にも関わった批評家エドワード・サイードについて。著者近著に『日常の読書学: ジョゼフ・コンラッド『闇の奥』を読む』『〈わたしたち〉の到来 英語圏モダニズムにおける歴史叙述とマニフェスト』などがあり、後者へ弊ブログでも紹介済。
中井亜佐子『〈わたしたち〉の到来』 三人のモダニズム作家から読む、「歴史」の書かれかた - もう本でも読むしかない
美術史の重鎮、高階秀爾による、『痴愚神礼讃』の著者である人文主義のルーツ、エラスムスの評伝。著者近著に『ヨーロッパ近代芸術論 ――「知性の美学」から「感性の詩学」へ』『カラー版 名画を見る眼Ⅰ 油彩画誕生からマネまで』『カラー版 名画を見る眼 Ⅱ 印象派からピカソまで』など。
新たに発見されたレヴィ=ストロースの講演「革命的な学としての民族誌学」(1937年)と「モンテーニュへの回帰」(1992年)を合わせて翻訳。訳者近著に『だれが世界を翻訳するのか―アジア・アフリカの未来から』、共著に『山口昌男 人類学的思考の沃野』など。
ジャン・カヴァイエスの翻訳やドゥルーズ、数理哲学の研究で知られる著者による新著。近著に『ドゥルーズとガタリの『哲学とは何か』を精読する 〈内在〉の哲学試論』『〈内在の哲学〉へ ―カヴァイエス・ドゥルーズ・スピノザ―』、訳書にアルベール・ロトマン『数理哲学論集 ー イデア・実在・弁証法』カヴァイエス『論理学と学知の理論について―構造と生成2』など。
無政府主義の父として知られるプルードンの主著が半世紀ぶりの新訳とのこと。訳者は昨年『社会秩序とその変化についての哲学』を刊行している。
プラトンからロールズまでの正義論の入門書が講談社現代新書より。著者は法哲学が専門で訳書にラズ『価値があるとはどのようなことか』、ドゥウォーキン『神なき宗教: 「自由」と「平等」をいかに守るか』、フリードマン『自由のためのメカニズム―アナルコ・キャピタリズムへの道案内』などの重要書籍多数。近著には『自由と正義と幸福と』『法哲学はこんなに面白い』など。
いわゆる「ケアの倫理」について、基本図書エヴァ・フェダ-・キテイ『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』の翻訳者である岡野八代による入門書が岩波新書より登場。近訳書は他にアイリス・マリオン・ヤング『正義への責任』、ケア・コレクティヴ『ケア宣言: 相互依存の政治へ』、ジョアン・C.トロント『ケアするのは誰か?: 新しい民主主義のかたちへ』など。
2008年に出ていたジュディス・バトラーの単行本の新版。「道徳が暴力に陥る危険性」がテーマとのこと。訳者は他にもバトラーの『非暴力の力』『問題=物質となる身体 「セックス」の言説的境界について』など手掛ける。訳者近著に『新自由主義と権力―フーコーから現在性の哲学へ』『権力と抵抗―フーコー・ドゥルーズ・デリダ・アルチュセール』など。
刊行時に話題を呼んだ著者のデビュー作が、「定本」となって岩波現代文庫に。著者近著に『教養主義のリハビリテーション』など。
2000年の講談社現代新書が増補版となってちくま学芸文庫に。ヨーロッパの法制史の原点を中世以来の決闘裁判に見るということらしい。著者近著に『グロティウス『戦争と平和の法』の思想史的研究』『北の十字軍 「ヨーロッパ」の北方拡大』など。
戦後しばらくの間、重要な政治的決定がしばしば温泉地で行われていたという驚きの歴史を原武史が書く。『「線」の思考』『地形の思想史』『空間と政治』『「民都」大阪対「帝都」東京 思想としての関西私鉄』など近著も多数
都市空間に特有の想像力が数々の妖怪を生み出したとする2001年の民俗学的考察が文庫化。民俗学者である著者の近著に『弥勒』『霊魂の民俗学 ――日本人の霊的世界』『江戸のはやり神』など。
伝説上の初代天皇、神武天皇についての言説の歴史を幕末から辿る。著者には天皇陵についての著書が多く、『天皇陵 「聖域」の歴史学』『検証 天皇陵』などがある。
近代パリの文化形成に大きな役割を果たしたボヘミアンについての本格研究。著者はアラン・コルバンを中心にフランスの学術書を多く翻訳しており、近訳書にコルバン『雨、太陽、風 〔天候にたいする感性の歴史〕』『草のみずみずしさ 〔感情と自然の文化史〕』『静寂と沈黙の歴史』などがある。近著には『批評理論を学ぶ人のために』『歴史をどう語るか: 近現代フランス、文学と歴史学の対話』など。
2015年に『現代インドのカーストと不可触民:都市下層民のエスノグラフィー』を刊行した著者による、同テーマの入門書が中公新書より。
坂口安吾作品と太平洋戦争との関係についての半藤一利の2013年の著書が文庫化。
版画家でもある著者による、柳宗悦の大部の研究書。著者のキャリアは80年代まで遡るが、近著は『ビジネス戦略から読む美術史』『図説 名画の歴史: 鑑賞と理解 完全ガイド』など入門書が多い。
1992年に刊行された、遠近法に関する思想的研究の基本書がちくま学芸文庫に。なんとこれが4バージョン目となる。著者近著に『古代ギリシアにおける哲学的知性の目覚め』『教養のヘーゲル『法の哲学』: 国家を哲学するとは何か』『様式の基礎にあるもの―絵画芸術の哲学』など。
芸術作品などに対する美的な判断において、帰属性という要素はいかに関わるのか。著者は美学・芸術学が専門でこれが初めての著書のもよう。
鏡リュウジによる、タロットの絵柄に秘められた歴史を1巻につき2枚ずつ紹介するシリーズが刊行開始。初回は『女教皇・女帝』『皇帝・教皇』含め3冊同時刊行で、大アルカナ22枚を11冊で紹介し、第12巻で小アルカナをまとめて紹介する。
鏡リュウジのタロット本については以前紹介したこちらの記事をどうぞ。
鏡リュウジ『タロットの秘密』 ゲームから神秘主義へ、タロットカードのディープな歴史 - もう本でも読むしかない
ではまた来月。