もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

,

奈落の新刊チェック 2024年4月 海外文学・SF・現代思想・歴史・ファンタスマゴリィ・羅刹国通信・暗黒の形而上学・ロシア宇宙主義・サルトル・古代技術・読書と暴動・セカイ系ほか

楽しいゴールデンウィークももう終わりですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。本は読めるコンディションの時とそうでない時がありますが、新刊は無情に刊行され続け、ちょっと待ってくれという気もしますがまあ後から読んでも特に差し支えはないかと思われます。読める本も読めない本も一期一会……などと悟ったふうなことを嘯きつつ4月の気になる新刊です。

 

 

創元SF短編賞出身作家の、『感応グラン=ギニョル』につづく第二作品集。

 

2022年に急逝した津原泰水の「幻の傑作」が初の単行本化。2000~2001年に不定期連載された作品とのこと。

 

韓国の国際ブッカー賞作家ハン・ガンによる2021年の長編だが、ちょうど今年フランスの「エミール・ギメ アジア文学賞」を受賞。訳者はおなじみ斎藤真理子。
ハン・ガンの作品についてはこちらもどうぞ。

ハン・ガン『すべての、白いものたちの』 個人と都市の記憶が静かに交錯する詩的な小説 - もう本でも読むしかない

 

 

絶望名人カフカの人生論』で知られる著者の編集によるカフカの短編集が新潮文庫より。編者近著に『食べることと出すこと (シリーズ ケアをひらく)』『イライラ文学館 不安や怒りで爆発しそうなときのための9つの物語』『口の立つやつが勝つってことでいいのか』など。

 

上記編者の監訳による、カフカの日記が新版で登場。

 

ジョイスベケットの後継者とも言われたイギリスの作家による1971年の実験小説。2000年同社から刊行された単行本の復刊。訳者は他にケイト・モートン、ケイト・アトキンソンなど手掛ける。近訳書に『メキシカン・ゴシック』など。

 

新潮文庫からのサガンの代表作のひとつが新訳に。訳者は同文庫の『悲しみよ こんにちは』や『星の王子さま』も手がける。近訳書に『打ちのめされた心は』(サガン)『ロシアの星』など。

 

日本SF作家クラブ編による、現代のSF作家の対談やコラムを満載した最新SF読本が登場。気鋭のSFレーベルKAGUYA BOOKSよりの刊行。
KAGUYA BOOKSを運営するKAGUYA PLANETについてはこちらの記事をどうぞ。

SFファンは「かぐやSFコンテスト」とオンラインSF誌「Kaguya Planet」に注目を!(あと自作宣伝) - もう本でも読むしかない

 

2020年に『連続と断絶: ホワイトヘッドの哲学』でデビューした著者の二冊目。ホワイトヘッドに加えてメイヤスー、ハーマン、ラトゥールなどを参照した哲学のようです。

 

スピノザドゥルーズ研究に基づく大部の哲学書を何冊も刊行してきた著者による新著。近著に『残酷と無能力』『すべてはつねに別のものである:〈身体ー戦争機械〉論』『スピノザ『エチカ』講義: 批判と創造の思考のために』『アンチ・モラリア 〈器官なき身体〉の哲学』など。

 

連合の系譜

編集者としても著名なソシュール研究者・思想史家による1400ページ超えの大著。近著には『エスの系譜 沈黙の西洋思想史』『日本国民であるために: 民主主義を考える四つの問い』など。

 

現代思想・文化研究を中心に多彩な著作のある著者による2016年刊行のガタリ入門が「決定版」となって登場。著者近著に『[増補新版]アーバン・トライバル・スタディーズーーパーティ・クラブ文化の社会学』、訳書にハーマン『非唯物論: オブジェクトと社会理論』、ラマール『アニメ・エコロジー―テレビ、アニメーション、ゲームの系譜学―』など。

 

イタリア未来派と舞踊研究を専門とする著者による、未来派とダンス、そして機械の美学についての本格的な研究書。著者はこれが初の単著となるようです。

 

全体芸術様式スターリン』などで知られる美術批評家・哲学者ボリス・グロイス編による、19~20世紀ロシアの特異な思想・ロシア宇宙主義についての論集。

 

カリブ海のフランス領マルティニーク出身コンビ、グリッサン&シャモワゾーによる文学的マニフェスト集。グリッサンの近著に『マホガニー』、シャモワゾーの近著に『素晴らしきソリボ』など。グリッサンの翻訳を手がける訳者の近著には『環大西洋政治詩学: 二〇世紀ブラック・カルチャーの水脈』『第二世界のカルトグラフィ』などがある。

 

崇高をテーマとしたエドマンド・バークによる美学の古典が平凡社ライブラリー入り。もうひとつの代表作『フランス革命についての省察』も2020年に新訳が出ています。訳者近著に『美学イデオロギー』など。

 

表象文化論の第一人者が明治日本の表象を語り尽くした2014年の大著が三分冊で文庫化。毎月一冊ずつ出るようです。著者の共著『徹底討議 二〇世紀の思想・文学・芸術』も出たばかり。

 

世紀転換期の産業都市とアメリカ文学の成立を、遊園地の描写から読み解く野心的な文芸評論。著者はパトリシア・ハイスミスサスペンス小説の書き方』の翻訳なども手がける。

 

谷崎潤一郎細雪」についての博論の書籍化。著者はなんと1984年に文藝賞を受賞してデビューした作家で、近年は『迷子たちの街』『失われた時のカフェで』などモディアノの翻訳も。

 

こちらも博論本。前期サルトルの哲学に注目し、重苦しい哲学者というサルトル像の刷新を目指す。これが初の著書となる。

 

2002年刊行のヴェイユ研究の定番書が岩波現代文庫化。著者はヴェイユとトーヴェ・ヤンソンの翻訳でも知られる。著者近著に『人と思想 107 ヴェーユ』(Century Books)『ミンネのかけら――ムーミン谷へとつづく道』『ムーミンを生んだ芸術家 トーヴェ・ヤンソン』など。

 

哲学・文学を横断する戦後フランス思想を概観する入門書が中公新書より。著者はこれが初の単著で、訳書に『プロヴァンスの村の終焉(上)』『プロヴァンスの村の終焉(下)』がある。

 

森崎和江の思想に、後にインターセクショナリティと呼ばれることになるものの萌芽を見る。著者の共著に『軍事的暴力を問う』、共訳書に『ジーザス・イン・ディズニーランド (ポストモダンの宗教、消費主義、テクノロジー)』がある。

 

多数の著書のある刑法の専門家による刑法入門がちくまプリマー新書より。著者近著に『刑法総論 第5版』『刑法各論 第4版』『刑法の考え方〔第3版〕』など。

 

60年代から岩波書店で出版を手掛け、84年には雑誌『へるめす』を創刊した編集者と、より若い世代の同じく元岩波書店編集者が近代思想史について語る。著者らの近著に『津田青楓: 近代日本を生き抜いた画家』『哲学者・木田元: 編集者が見た稀有な軌跡』『なぜ友は死に 俺は生きたのか ─戦中派たちが歩んだ戦後─』など。

 

19世紀~20世紀に活躍した古典学の権威による、古代ギリシアの科学技術について語った古典がちくま学芸文庫で復刊。なんと初版は1947年。訳者は科学史についての著書も多い。近年復刊した訳書に『魔法: その歴史と正体』『復刻版 ギリシア数学史』など。

 

何かとわかりづらい神聖ローマ帝国の注文書が中公新書で登場。ドイツ史を専門とする著者の近訳書に『中世ヨーロッパ社会の内部構造』などがある。

 

第二次世界大戦最後の戦争である日ソ戦争についての、300ページ超えの中公新書。著者近著に『蔣介石の書簡外交 上巻: 日中戦争、もう一つの戦場』『下巻

日露近代史 戦争と平和の百年』『ソ連と東アジアの国際政治 1919-1941』など。

 

日本未公開映画の配給を行うグッチーズ・フリースクールによる、『USムービー・ホットサンド ──2010年代アメリカ映画ガイド』に続く映画本。今回は女性と映画がテーマ。

 

プーチン体制下のロシアで常に批判的活動を行ってきたパンクバンドにしてアクティヴィスト集団プッシー・ライオットの全貌を創設メンバーが語る。訳者は音楽・アート関連の翻訳が多く、近訳書に『NAÏVY』『女パンクの逆襲──フェミニスト音楽史』『社会を変えた50人の女性アーティストたち』デヴィッド・バ-ン『音楽のはたらき』、近著に『野中モモの「ZINE」 小さなわたしのメディアを作る』など。

 

批評同人誌が話題となった著者による、改めての「セカイ系」批評。商業出版ではこれが初の著書。

 

ではまた来月。