もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

,

奈落の新刊チェック 2022年6月 海外文学・SF・現代思想・歴史・血を分けた子ども・地図と拳・バロックの哲学・精神分析・ミュージカルほか

早くも今年が半分過ぎてしまいましたがいかがお過ごしでしょうか。そろそろ皆様も、「今年が半分終わったのに読んでない新刊がこんなに……」と焦る頃合いではないでしょうか。私はもうそのように焦ることはやめました。面白そうな新刊が、多すぎるから……本との出会いは、実際に読めるかどうかも含めて一期一会……そんな諦念に身を浸しつつ、6月に気になった新刊です。

 

「ブラックフェミニズムの伝説的SF作家」というオクテイヴィア・E・バトラーの短編集。表題作はヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞の三冠に輝いた、なんと「究極の「男性妊娠小説」」らしい…… 翻訳はクレストブックスやエクス・リブルスで大活躍の藤井光。ジャネル・モネイも絶賛というので気になります。

 

ペルーのノーベル賞作家、バルガス・ジョサの長編デビュー作(1963年発表)が光文社古典新訳文庫から登場。訳者の寺尾隆吉は同じ文庫でコルタサルも訳してます。新潮社から杉山晃訳で『都会と犬ども』というタイトルで出ていたものの新訳です。

 

かのウィリアム・ギブスンが執筆したもののお蔵入りとなったことで有名な、ギブスン版『エイリアン3』の脚本がなんとここへ来て小説化(原書は2021年)。小説化を担当したパット・カディガンは邦訳がほとんど無いのだが、80年代から活躍するサイバーパンク第一世代の作家らしい。他の作品も気になります。入間眞訳。

 

デビュー作でシャーリイ・ジャクスン賞を獲った作家ケヴィン・ウィルソンによる2019年のベストセラー。「燃える双子」というのは比喩ではなく本当に燃えているらしい。翻訳はフロスト警部シリーズなども訳している芹沢恵。

 

韓国の奇才と呼ばれるカン・ファギルの短編集が白水社エクス・リブルスから登場。小山内園子訳。

 

ゲームの王国』で日本SF大賞山本周五郎賞をダブル受賞という珍しいパターンで有名な新鋭作家・小川哲の新作長編は、満州を舞台にした歴史SF大作。

 

うつくしい繭』で2018年にデビューした、ゲンロン大森望SF創作講座出身作家の二冊目の単行本。筑豊の炭鉱街を舞台にした小説とのこと。

 

八面六臂の活躍を見せる伴名練のセレクトによる、日本SF新鋭作家アンソロジー。まだSFの単著を出していない作家、という条件で選ばれた14人による短編が収録されています。編者による、収録作に関連するSFサブジャンル解説も14本収録とのこと。

 

村田沙耶香の新作短編集。「なあ、俺と、新しくカルト始めない?」という帯コピーはかなり読みたくなってしまう。

 

竹本健治がセレクトした「変格」ミステリのアンソロジー。昨年「戦前篇」が刊行済で、戦後篇も今回が「1」なので今後も続刊があるようだ。中井英夫山田風太郎日影丈吉など収録。

 

ベストセラー『日本現代怪異事典』の著者・朝里樹はこれまで妖怪や怪談、都市伝説の本を出していたが、今回はフィクションの中の怪異・怪物の大事典。かなり細かいキャラクターまでカテゴリ別に網羅されている模様。

 

ここのところベルクソン関連書が刊行ラッシュで大変なことになっていますが、これは88年生まれ著者によるデビュー作。

 

ドゥルーズデカルトに関する著書の多い哲学者、小泉義之の600ページ超え大著。著者の哲学の集大成のよう。ちなみに1月に講談社学術文庫で刊行されたデカルト方法叙説』の新訳も手掛けており、気になります。

 

哲学史の本道から外れた「反─理性」の哲学の流れを、「バロック」の名のもとにまとめた檜垣立哉の大著。ドゥルーズベンヤミンホワイトヘッド坂部恵西田幾多郎九鬼周造などの名前が並ぶ。檜垣立哉についてはこちらの過去記事をどうぞ。

 

哲学、芸術、そして医学によって捉えられる対象である憂鬱(メランコリー)の系譜を、古代から現代まで追った文化史。著者の谷川多佳子は近世哲学を専門とし、岩波のライプニッツモナドロジー』の翻訳者でもある。

 

医師、精神医学史家であり、なんと『アイヒマン調書』の翻訳者でもある著者による、ユダヤ人であったフロイトとナチズムとの関係についての研究。精神医学の専門書店である誠信書房より。著者は『隣人が敵国人になる日』など、東欧とユダヤ人に関する本を多く刊行している。

 

ガリツィアというのは現在の西ウクライナとのこと。この地に住むウクライナ人、ポーランド人、そしてユダヤ人の複雑な関係と歴史について。2008年に出たものの新装版。

 

愛国思想、パトリオティズムの起源を古代ローマまで遡り、その後の歴史的な変遷を追う。著者は政治思想史が専門で、岩波から同テーマの『愛国の構造』や、ちくまプリマー新書から『従順さのどこがいけないのか』も出ている。

 

日清戦争から敗戦にいたる、帝国日本50年間のプロパガンダの歴史。著者は『満洲国のビジュアル・メディア』など、近代アジアのメディアについて著書がいろいろある。

 

近世の日本人は、災厄をどのように生き延びたか、という視点による近世史。2001年に同社から出ていた単行本が平凡社ライブラリー入り。

 

1930年代~40年代のアメリカで作られた、全て再婚をテーマにした7本の古典的映画を分析する異色の映画論。同じく映画論である『眼に映る世界〈新装版〉』と同時刊行。著者は2018年に逝去した哲学者で、美学や政治学、文芸評論など幅広いテーマの研究を残したそうだ。二冊ともに石原陽一郎訳。

 

東京都写真美術館で開催中の展覧会図録。1930年代~40年代に日本で起こった前衛写真の潮流をまとめる。

 

19世紀アメリカから現代の2.5次元まで、ミュージカルの歴史をまとめた新書。「なぜ突然歌いだすのか」という副題はインパクトがある。著者には『宝塚ファンの社会学』『コンサートという文化装置』などの著書あり。

 

最近すっかりツイッターでもよく見かけるようになったジジェクの評論集。最新の話題について語ってるようです。

 

博覧強記のおなじみ鹿島茂による、パスカル『パンセ』から抽出した人生論。パスカル入門によさそう。

 

「月刊ムー」に掲載された書評をまとめた本がなんと青土社から刊行。「その書評の範囲はオカルト関連書にとどまらず、天文学、考古学から理論物理学まで多岐にわたり、業界関係者の評価も高い」らしい……

 

 

ではまた来月。