もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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奈落の新刊チェック 2022年7月 海外文学・SF・現代思想・ガルシアマルケス・向日性植物・市民的不服従・最後の審判・総員玉砕せよ!ほか

乱世の度合いが強まる7月でしたが皆様いかがお過ごしでしょうか。SNSは感情が強ければ強いほど言葉が流通する装置ですので、たまにはそこを離れて本を読むと時間の流れが変わってよいかと思います。今月はなんとなく小説が多くなりましたね。

 

 

ガルシア=マルケスの短めの小説を集めた文庫。読んだことない方はこれをとりあえず買えばいいんじゃないでしょうか。2019年の単行本『純真なエレンディラと邪悪な祖母の信じがたくも痛ましい物語』の改題文庫化。

 

信頼の光文社古典新訳文庫からカフカの短編集が登場。収録作:インディアンになりたい/突然の散歩/ボイラーマン/流刑地で/田舎医者/夢/断食芸人/歌姫ヨゼフィーネ、またはハツカネズミ族

カフカの短編についてはこちらの記事もどうぞ。

 

チェスの神童を描いた、ナボコフの1930年発表の小説が文庫化(単行本1999年・2008年新装版)。翻訳はこれまたチェスのプロブレム作家として有名な若島正

 

東京創元社から古屋美登里訳で刊行が続いているエドワ-ド・ケアリ-、これでもう6冊目。今回はピノキオを作ったジュゼッペ老人視点の物語だそうで面白そう。

 

好評の新潮文庫ラヴクラフトの3冊目。毎回表紙がかっこいい。収録作:アウトサイダー/無名都市/ヒュプノス/セレファイス/アザトホート/ポラリス/ウルタルの猫/べつの神々/恐ろしき老人/霧の高みの奇妙な家/銀の鍵/名状しがたいもの/家の中の絵/忌まれた家/魔女屋敷で見た夢

 

向日性植物

若い世代のレズビアンを描いて台湾でベストセラーとなった2016年刊行の小説が、芥川賞作家・李琴峰の翻訳で刊行。李琴峰は自分で書いた小説も自分で中国語に訳して刊行しています。

 

その李琴峰の2018年デビュー作が文庫化。台湾から日本に渡ったレズビアンを主人公にした小説。作中で中山可穂が言及されたりします。

 

アニメ「ゴジラ シンギュラ・ポイント」(傑作!!)を、シリーズ構成と脚本を務めた円城塔が自ら小説家。もともとびっくりするほど円城ワールドだったアニメをさらなる円城節で楽しもう。

 

創元SF短編賞出身の芥川賞作家・高山羽根子の2018年作「オブジェクタム」と2019年作「如何様」が一冊になって文庫化。同作家の長編『暗闇とレンズ』についてはこちらの記事を参照ください。

 

幽霊を見たことは無いが幽霊はすごく怖いという藤野可織の2019年刊行初エッセイが文庫化。もともとは怪談雑誌『冥』『幽』に掲載されたもの。著者の傑作長編『ピエタとトランジ』についてはこちらの記事をどうぞ。

 

先月のこのコーナーで単行本『地図と拳』を紹介した小川哲の2019年の短編集が文庫化。直木賞候補にもなっていました。

 

フランクフルト学派第三世代と言われているドイツの著者によるがっつりした美学の本。著者は他に『芸術の至高性―アドルノとデリダによる美的経験』の邦訳あり。

 

ルクソン本刊行ラッシュのうち一冊。ベルクソンの時間哲学の側面に着目した本で、著者はこれが初の単著のもよう。

 

またアガンベンの新刊が出ている……しかもテーマは仏教におけるいわゆる「カルマ(業)」。キリスト教西洋文化とカルマ概念を比較しつつ倫理について考える本のようです。アガンベンについてはこちらこちらの過去記事もどうぞ。

 

ヘンリー・デイヴィッド・ソローの『市民の反抗』でも知られる「市民的不服従」の概念について、その歴史と概要をまとめる。著者は政治思想や民主主義を専門とするアメリカのインディアナ大学教授で、これが初の日本語訳のもよう。最近は「もう市民的不服従が必要なのかな……」と思ってしまうことが多いので気になります。

 

そのあまりに精力的な仕事ぶりに複数人存在説が囁かれたり「月刊岡田温司」とか言われたりする著者の、中公新書からのキリスト教表象シリーズ最新刊が登場。著者の書籍リストを先日作成したのでぜひご覧ください。

 

パリと文化史を語らせたらこの人、鹿島茂の1992年の単行本が二度目の文庫化。(河出→小学館文庫→講談社学術文庫空想的社会主義者として知られるサン=シモンの思想と万博を結び付け、近代と資本主義の神話としての万博を描いた本。読みたい。それにしても小学館文庫から講談社学術文庫になった本って珍しいのでは?

 

同時代から現代までにいたる作家たちが、フランス革命をどのように見たり書いたりしてきたのか、をまとめた論集。フランス革命についてのいろんな視点を読めそうです。

 

イスラム研究で知られる井筒俊彦によるロシア文学批評の古典が新版で(旧版1989年)。今読めってことなんでしょうね。

 

仏教専門出版社の法蔵館が出してる法蔵館文庫より、1994年刊の単行本が文庫化。神道を中心とした明治政府による日本国民統合のための宗教政策を詳細に論じた本。著者は明治維新と近代日本が専門。8000円を超えてた単行本が文庫化して2000円未満に!

 

水木しげるの戦記ものを代表する本書(1991年刊・1995年文庫)に、没後発見された構想ノートが加えられて新装完全版に。とりあえず買っておくか。(表紙は前の方が良かったな……)

 

こちらも何バージョンも出ている萩尾望都光瀬龍のクラシックだが、今回はイラストコレクション・未公開イメージスケッチを収録してA5版で刊行。ちょっと大判なのはいいですね。

 

1988年にキネマ旬報から出ていたアンドレイ・タルコフスキーの著書がちくま学芸で文庫化。発売後すぐに重版していたようで、タルコフスキーの人気はすごい。

 

かのプライマル・スクリームの中心人物ボビー・ギレスピーの自伝がいきなり刊行。原書は昨年10月刊行で、ラフ・トレードによるブック・オブ・ザ・イヤーを獲得したらしい(さもありなん)。目次を見る限り、1991年までの話がメインなのだろうか。翻訳は近年『CRASS』『ニュー・オーダーとジョイ・ディヴィジョン、 そしてぼく』などディープなロック関連書を翻訳している萩原麻理。

 

それではまた来月。