もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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小説

ポーの傑作「アッシャー家の崩壊」のラストシーンが好きすぎる

まずは「アッシャー家の崩壊」をネタバレなしで紹介します。 アッシャー家の崩壊/黄金虫 (光文社古典新訳文庫) 作者:ポー 光文社 Amazon さてエドガー・アラン・ポーである。前回はポーの話をしようと思ったらそのあまりの邦訳のバージョンの多さについそち…

最初にハマった小説がギブスン『ニューロマンサー』だった人間の末路

卵から孵って最初に見たのが『ニューロマンサー』 ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF) 作者:ウィリアム ギブスン 早川書房 Amazon 私はウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』が大好きというか、現在に至るまでに読んでいるSF、あるいは文学、あるいは…

『逆行の夏──ジョン・ヴァーリイ傑作選』で読む、ヴァーリイの煌びやかで繊細なSF

ジョン・ヴァーリイの短編「逆行の夏」を紹介します。 ジョン・ヴァーリイは70年代末から活動しているアメリカのSF作家で、私のとても好きな作家の一人だ。SFファン向けの説明をすると、だいたいニューウェーブとサイバーパンクの中間くらいの作風だと思う。…

藤野可織『ピエタとトランジ』 無敵の二人は変化に抵抗する

無敵の存在に関する小説 ピエタとトランジ <完全版> 作者:藤野可織 講談社 Amazon ピエタとトランジ (講談社文庫) 作者:藤野 可織 講談社 Amazon あなたはもう藤野可織『ピエタとトランジ<完全版>』(文庫版では『ピエタとトランジ』)を読んだだろうか…

文庫でポーを読もう! エドガー・アラン・ポーの文庫を徹底比較

ポーの文庫ってどれを買ったらいいの!? 私は御多分に洩れずエドガー・アラン・ポーのファンです。ミステリ、ホラー、ゴシック、SF、ファンタジーといったジャンル全てのルーツになっていると言っても過言ではない(やや過言)作家なので、そういうジャンル…

岩波文庫『カフカ短編集』で、『変身』だけじゃないカフカの魅力を堪能すべし

『変身』もいいけど…… カフカと言えばなんといっても『変身』が有名だが、私は他の短編の方が好きだ。 いや、もちろん『変身』は名作なのだが、なんというか……こう言ってしまっていいのかわからないのだが、その、わりと出オチっぽいというか…… こともあろう…

ムアコック「エルリック・サーガ」で出会う暗黒ファンタジーと葛藤するヒーロー

はじめてのダーク・ファンタジー メルニボネの皇子 作者:マイクル ムアコック 早川書房 Amazon フロム・ソフトウェアのエルデンリングが大人気なわけだが、ああいうダークな雰囲気のヒロイック・ファンタジーを見ると『エルリック・サーガ』を思い出す。 中…

松浦理英子『最愛の子ども』 危うい関係を曖昧に描き切ること

一般的な枠組に分類できない種類の人間関係を書く 最新作『ヒカリ文集』が発売されたばかりの松浦理英子だが、ここではその前の作品である『最愛の子ども』(文春文庫)を紹介しよう。2017年に発表され、泉鏡花文学賞を受賞した作品だ。2020年に文庫化されて…

『久生十蘭短編選』で短編の超絶技巧を味わえ

精密に磨き上げられた短編小説世界 私はクラシックな日本文学に詳しい人間ではまったくないが、誰か好きな作家を一人挙げろと言われたら久生十蘭を挙げると思う。 久生十蘭短篇選 (岩波文庫) 作者:久生 十蘭 岩波書店 Amazon 1902年(明治35年)生まれのこの…

J.G.バラードの不毛の癒し 『ミレニアム・ピープル』ほか

J.G.バラードは何も信じてないから信用できる イギリスのニュー・ウェーブSFを代表する作家とよく言われるジェームス・グレーアム・バラードことJ.G.バラードは私の一番好きな小説家の一人なのだが、どこが好きかと言われると説明しづらい。 SF作家ではある…

高山羽根子『暗闇にレンズ』を読んで震えあがった。

女性たちの偽史SF 高山羽根子という作家の名前はSF方面でちょくちょく目にしていて、読んでみたいなーと思っているうちに時は過ぎゆき(最近は少し油断するとすぐに5年くらい経つ)、そうこうしているうちに芥川賞を受賞し、前後してこの『暗闇にレンズ』(…

寅年なのでボルヘス「Dreamtigers──夢の虎」を読もう

虎と言えばやっぱりボルヘス! 新年あけましておめでとうございます。寅年ですね。 虎と聞いて真っ先に思い出す文学者と言えば、虎が大好きなアルゼンチンの巨匠、ホルヘ・ルイス・ボルヘスです。膨大な知識と緻密で複雑な構成による短編作家として有名なボ…

『ひらいて』ほか、綿矢りさのバキッとした文体が好き

祝・『ひらいて』映画化 (※注意)いきなり中盤のネタバレあり。 綿矢りさの『ひらいて』(新潮文庫)がいつの間にか映画化していた。 綿矢りさは『インストール』からわりと読んでるけど、『ひらいて』は一番好きかもしれない。主人公の女子高校生が、同じ…

佐藤亜紀『ミノタウロス』 容赦のない「歴史」の手触り、そして機関銃付き馬車。

祝・復刊!佐藤亜紀『ミノタウロス』 ミノタウロス (角川文庫) 作者:佐藤 亜紀 KADOKAWA Amazon 長らく品切れ状態だった佐藤亜紀『ミノタウロス』が、角川文庫から復刊された。めでたい。『スウィングしなけりゃ意味がない』が出て以来、入手困難だった佐藤…

ジーン・ウルフ『ケルベロス第五の首』 緻密に構成された不確かさ。

国書刊行会「未来の文学」シリーズの完結を記念して、ジーン・ウルフの謎めいた傑作『ケルベロス第五の首』を紹介します。