もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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思想・哲学・批評

中島隆博『中国哲学史』 誠実でダイナミックな中国哲学入門

「中国」、「哲学」、そして「歴史」とは何か、から始まる「中国哲学史」 中国哲学史 諸子百家から朱子学、現代の新儒家まで (中公新書) 作者:中島隆博 中央公論新社 Amazon 2月に刊行された新書『中国哲学史』は、中国哲学に関してすでに多くの著書がある中…

多木浩二『肖像写真』 ナダール、ザンダー、アヴェドンから読み解く、歴史の無意識

三人の肖像写真家 今回は、以前当ブログで『ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」精読』を紹介した多木浩二の本をもう一冊紹介しよう。 pikabia.hatenablog.com 今回取り上げる『肖像写真』(岩波新書)は、美術、写真、映画、建築など多彩な分野の批評を残…

岡田温司『アガンベン読解』 「できるけどやらない」という能力、そして政治の存在論

イタリア現代思想の紹介者としての岡田温司 増補 アガンベン読解 (925;925) (平凡社ライブラリー お 19-3) 作者:岡田 温司 平凡社 Amazon 岡田温司の著書には大きく分けて二つの分野があり、ひとつは以前このブログでも紹介した美術史・表象文化論に関するも…

田中純『デヴィッド・ボウイ』を読むことは、ボウイを好きになる一番いい方法だ

この分厚い本はどんな本なの? デヴィッド・ボウイ 無を歌った男 作者:田中 純 岩波書店 Amazon 皆様、デヴィッド・ボウイを聴いたことがあるだろうか。少なくとも名前くらいは知っているのではないだろうか。1960年代末から、2016年に死去するまで音楽活動…

國分功一郎『近代政治哲学』 民主主義にとって「主権」とは何か?

「主権」の歴史 近代政治哲学 ──自然・主権・行政 (ちくま新書) 作者:國分功一郎 筑摩書房 Amazon 今回は國分功一郎による2015年の新書『近代政治哲学 ──自然・主権・行政』(ちくま新書)を紹介する。 「近代政治哲学」と聞いても具体的に何の話なのかわか…

檜垣立哉『ドゥル-ズ 解けない問いを生きる』 生きて変化することの肯定

生命哲学としてのドゥルーズ 10年ほど前、震災とそれに続く原発事故を遠くから経験した頃に、私はドゥルーズの哲学に出会った。ドゥルーズの哲学には、その時の私が必要としていたもの、すなわち生物・生命体である自分や家族がこの不確かな世界で生きていく…

三浦哲哉『映画とは何か フランス映画思想史』 映画そのものの感動とは何か

かつて、映画は「動くこと」そのものだった 映画とは何か: フランス映画思想史 (筑摩選書) 作者:三浦 哲哉 筑摩書房 Amazon 三浦哲哉の『映画とは何か フランス映画思想史』(筑摩選書)は、タイトルが示すとおり、映画と言ってもフランス映画の本である。 …

前島賢『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』を読んで真のセカイ系を知るべし

「セカイ系」を再定義する必読本 シン・エヴァンゲリオンが公開されて皆がエヴァの話をしていた頃、ふと思い出して前島賢の『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』(ソフトバンク新書)を読み返した。 セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史 (S…

カンタン・メイヤスー『有限性の後で』 思弁的実在論のやばい魅力

現代思想界の新星・メイヤスー カンタン・メイヤスーの名前が「思弁的実在論」というジャンル名とともに聞こえてきたのがいつだったかあまり覚えていないが、2016年に人文書院から『有限性の後で 偶然性の必然性についての試論』が千葉雅也・大橋完太郎・星…

高村峰生『接続された身体のメランコリー』 我々は何かを失ったが、何を失ったのかわからない。

批評を読む楽しみ 英米文学や表象文化論を専門とする高村峰生による、英米の小説・映画・音楽についての批評集がこの『接続された身体のメランコリー 〈フェイク〉と〈喪失〉の21世紀英米文化』(青土社)だ。 接続された身体のメランコリー: 〈フェイク〉…

千葉雅也・山内朋樹・読書猿・瀬下翔太『ライティングの哲学』は、「クォリティを諦めろ」と力強く背中を押す。

この本のおかげでブログを始められました。 千葉雅也・山内朋樹・読書猿・瀬下翔太による『ライティングの哲学』(星海社新書)。 執筆の悩みを抱えた四人の著者が何とかして書けるようになる方法を切実に模索した本だが、何を隠そう私がこのブログを立ち上…

國分功一郎『暇と退屈の倫理学』 ミステリ小説のように読める哲学、そしてフェアプレイ感

私の哲学との出会い 國分功一郎の『暇と退屈の倫理学』が、10年の時を経ての文庫化である。この機会にみんな買ってほしい。最初は2011年に朝日出版社から、次に増補新版が2015年に太田出版から出ている。このご時世に、哲学の本が10年で3バージョンも出ると…

ベンヤミン入門におすすめの文庫はこれだ!多木浩二『「複製技術時代の芸術作品」精読』

この本がベンヤミン入門に最適だと思う理由 私はヴァルター・ベンヤミンがとても好きなのだが、何せ読みづらい文章を書く人なので、なかなか人に勧めづらい。 入門書もあまり出ていない。 そんな中で数少ない、「これを最初に読めばいいんじゃないかな……」と…

アガンベンのスリリングな政治哲学を読もう! 「ホモ・サケル」とは何か

大人気!ジョルジョ・アガンベン イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンはいま最も邦訳がたくさん出ている海外の哲学者の一人だと思うが、最近また一冊入門書が出たので紹介しよう。 最近絶好調な感じがする講談社選書メチエから出た『アガンベン《ホモ・…

岡田温司『西洋美術とレイシズム』ほか 芸術は政治でしかありえない

西洋美術の歴史に潜在するレイシズム 岡田温司は私が最もたくさん読んでいる著者の一人だ。著書が多すぎてぜんぜん追いつけないのだが。 この著者の仕事には大きく分けて、イタリア現代思想の紹介と、美術史・芸術批評のふたつのカテゴリーがある。(もちろ…