もう本でも読むしかない

仕方ないので本でも読む。SF・文学・人文・漫画などの書評と感想

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2022-01-01から1年間の記事一覧

雑談:集中力がなくて本が読めない……そんなあなたのためのラディカル・シンキング

集中力がなくて本を読み続けられない!どうすればいい? 近年、めっきり本を読む時の集中力が減退したな~、と感じる。10年くらい前と比べて如実に本を読むスピードが下がった気がする。 しかしこれはおそらく仕方ないというか、たぶん体力の問題のような気…

國分功一郎『近代政治哲学』 民主主義にとって「主権」とは何か?

「主権」の歴史 近代政治哲学 ──自然・主権・行政 (ちくま新書) 作者:國分功一郎 筑摩書房 Amazon 今回は國分功一郎による2015年の新書『近代政治哲学 ──自然・主権・行政』(ちくま新書)を紹介する。 「近代政治哲学」と聞いても具体的に何の話なのかわか…

奈落の新刊チェック 2022年3月 海外文学・日本文学・現代思想・マラルメ・晩年の仕事・神話学・不良少女・ファッションスタディーズほか

いよいよ春ですが、新年度も読みたい本が多くて気の休まる暇もありはしないわけです。でも本は読めなくても、とりあえず買って積んでおくと、潜在的には読んでいる状態になると言えます。言えますよ。電子で積んでおくという手もあります。最高なのは紙と電…

ロベール・ブレッソン監督『たぶん悪魔が』 静謐で官能的な、運命的映像

ブレッソン"幻の傑作" ロベール・ブレッソン監督の1977年の映画『たぶん悪魔が』を観た。日本初公開だそうだ。 一見するとリアルな人々と街の姿を捉えたかに見える映画だが、その実、この映画に映っている光景は決して現実的なものではない。あらゆる登場人…

岩波文庫『カフカ短編集』で、『変身』だけじゃないカフカの魅力を堪能すべし

『変身』もいいけど…… カフカと言えばなんといっても『変身』が有名だが、私は他の短編の方が好きだ。 いや、もちろん『変身』は名作なのだが、なんというか……こう言ってしまっていいのかわからないのだが、その、わりと出オチっぽいというか…… こともあろう…

台湾日記:大安路一段で芝麻麺とか胡椒餅とかを食べる。

台北で仕事をしている間、南北に走る大安路(ダーアンルー)という細めの道の、東西に走る市民大道(スーミンダーダオ)と忠孝東路(ジョンシャオドンルー)という大通りに挟まれた区間で、よく昼食を食べた。住所で言うと大安路一段と呼ばれる地域のうち一…

ムアコック「エルリック・サーガ」で出会う暗黒ファンタジーと葛藤するヒーロー

はじめてのダーク・ファンタジー メルニボネの皇子 作者:マイクル ムアコック 早川書房 Amazon フロム・ソフトウェアのエルデンリングが大人気なわけだが、ああいうダークな雰囲気のヒロイック・ファンタジーを見ると『エルリック・サーガ』を思い出す。 中…

不思議な映画『ダークナイトライジング』は、ノーランのゴシックおとぎ話だ。

好きにならずにはいられない、『ダークナイトライジング』 ※この記事は全部ネタバレです。 バットマンの新作が公開されているわけだが、まだ見れてないので今回は私の好きなバットマン映画を紹介しよう。 傑作かどうかと言われるとよくわからないものの、妙…

檜垣立哉『ドゥル-ズ 解けない問いを生きる』 生きて変化することの肯定

生命哲学としてのドゥルーズ 10年ほど前、震災とそれに続く原発事故を遠くから経験した頃に、私はドゥルーズの哲学に出会った。ドゥルーズの哲学には、その時の私が必要としていたもの、すなわち生物・生命体である自分や家族がこの不確かな世界で生きていく…

松浦理英子『最愛の子ども』 危うい関係を曖昧に描き切ること

一般的な枠組に分類できない種類の人間関係を書く 最新作『ヒカリ文集』が発売されたばかりの松浦理英子だが、ここではその前の作品である『最愛の子ども』(文春文庫)を紹介しよう。2017年に発表され、泉鏡花文学賞を受賞した作品だ。2020年に文庫化されて…

奈落の新刊チェック 2022年2月 海外文学・日本文学・SF・現代思想・宝塚・クィア批評・ゴシック・迷宮ほか

激動の世の中であっても面白そうな本の刊行は待ってはくれないのであった。人々は積み上げられた過去を受け止めて、その巨大な蓄積の中からひねり出したものを自分の言葉として書き続けるのであった。われわれは実体/非実体の書店に並ぶ実体/非実体のそれ…

三浦哲哉『映画とは何か フランス映画思想史』 映画そのものの感動とは何か

かつて、映画は「動くこと」そのものだった 映画とは何か: フランス映画思想史 (筑摩選書) 作者:三浦 哲哉 筑摩書房 Amazon 三浦哲哉の『映画とは何か フランス映画思想史』(筑摩選書)は、タイトルが示すとおり、映画と言ってもフランス映画の本である。 …

佐藤猛『百年戦争 中世ヨ-ロッパ最後の戦い』で読む、そもそも「国」って何なのかという話

百年戦争と近代国家のはじまり 私は歴史書をメインに読むタイプの人間ではなく、芸術の本や現代思想の本を読んでついでに歴史を学んでいる程度の歴史好きなのだが、たまにいわゆる「歴史の本」を読むのは新鮮な体験である。 そして最近の私の興味は、近代に…

鬼舞辻無惨は都市を体現する。『鬼滅の刃』における他者としての個人主義

雑踏の中で現れた鬼 ※終盤のネタバレがあります。 私は吾峠呼世晴『鬼滅の刃』のそんなに熱心な読者ではなかったのだが、好きなキャラクターは鬼舞辻無惨だ。 鬼滅の刃 2 (ジャンプコミックスDIGITAL) 作者:吾峠呼世晴 集英社 Amazon まず登場シーンが良かっ…

『久生十蘭短編選』で短編の超絶技巧を味わえ

精密に磨き上げられた短編小説世界 私はクラシックな日本文学に詳しい人間ではまったくないが、誰か好きな作家を一人挙げろと言われたら久生十蘭を挙げると思う。 久生十蘭短篇選 (岩波文庫) 作者:久生 十蘭 岩波書店 Amazon 1902年(明治35年)生まれのこの…

前島賢『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』を読んで真のセカイ系を知るべし

「セカイ系」を再定義する必読本 シン・エヴァンゲリオンが公開されて皆がエヴァの話をしていた頃、ふと思い出して前島賢の『セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史』(ソフトバンク新書)を読み返した。 セカイ系とは何か ポスト・エヴァのオタク史 (S…

カンタン・メイヤスー『有限性の後で』 思弁的実在論のやばい魅力

現代思想界の新星・メイヤスー カンタン・メイヤスーの名前が「思弁的実在論」というジャンル名とともに聞こえてきたのがいつだったかあまり覚えていないが、2016年に人文書院から『有限性の後で 偶然性の必然性についての試論』が千葉雅也・大橋完太郎・星…

台湾日記:台北近代建築めぐり、そして台湾総督府。

台湾に到着してから初めての休日、私はさっそく観光に出かけた。といっても近場である。私が向かったのは台北市の中心地、臺北車站(タイペイチャージャン) (台北駅)の周辺地区だ。私は特に詳しくはないのだが近代初期の建築が好きで、台湾にはそのような…

奈落の新刊チェック 2022年1月 海外文学・ミステリ・現代思想・歴史・芸術・怪異猟奇・蓬莱島・クィア神学・ソ連映画ほか

面白い本がありすぎて困っているみなさんこんにちは。ただでさえ時間がなくて苦しんでいるあなたをさらに苦しめてしまうかもしれない、面白そうな新刊チェックの時間です。私と一緒に、面白そうな本はいくらでもあるけど読む時間が圧倒的に足りないという受…

J.G.バラードの不毛の癒し 『ミレニアム・ピープル』ほか

J.G.バラードは何も信じてないから信用できる イギリスのニュー・ウェーブSFを代表する作家とよく言われるジェームス・グレーアム・バラードことJ.G.バラードは私の一番好きな小説家の一人なのだが、どこが好きかと言われると説明しづらい。 SF作家ではある…

近藤信輔『忍者と極道』が暗示する私たちの見えない戦争

笑いのリアリティとモラル 忍者と極道(1) (コミックDAYSコミックス) 作者:近藤信輔 講談社 Amazon 近藤信輔『忍者と極道』(コミックDAYSコミックス)は例えば喋る生首や面白いフリガナで有名で、実際にすごく笑えるんだけど、同時にシリアスな漫画で…

高村峰生『接続された身体のメランコリー』 我々は何かを失ったが、何を失ったのかわからない。

批評を読む楽しみ 英米文学や表象文化論を専門とする高村峰生による、英米の小説・映画・音楽についての批評集がこの『接続された身体のメランコリー 〈フェイク〉と〈喪失〉の21世紀英米文化』(青土社)だ。 接続された身体のメランコリー: 〈フェイク〉…

黒沢清『スパイの妻』「カメラに映っていない場所では、何が起きていてもおかしくない」という緊張感。

スパイの妻<劇場版> 蒼井優 Amazon 黒沢清は私が一番好きな映画監督の一人だが、今のところ最新作である『スパイの妻』は中でも特にお勧めしやすいもののひとつかもしれない。 (※ネタバレは序盤まで) 舞台は1940年の神戸。太平洋戦争の開戦が徐々に近づ…

台湾日記:中山北路をYOUバイクで下る

台北の街角にはYOUバイクというレンタル自転車のスタンドがあちこちに設置されており、携帯電話の番号で登録すれば、交通機関用のプリペイドカードで利用できる。ある場所のスタンドで借り、別のスタンドで返せばいい。スタンドの場所は専用のアプリでも調べ…

『超人X』『東京喰種』 石田スイが描く生命の不可逆的な変化

石田スイは肉体の変形を描く 『東京喰種』の石田スイの新作、『超人X』(ヤングジャンプコミックス)が1・2巻同時発売したのでさっそく買った。 超人X 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) 作者:石田スイ 集英社 Amazon 超人X 2 (ヤングジャンプコミックスD…

高山羽根子『暗闇にレンズ』を読んで震えあがった。

女性たちの偽史SF 高山羽根子という作家の名前はSF方面でちょくちょく目にしていて、読んでみたいなーと思っているうちに時は過ぎゆき(最近は少し油断するとすぐに5年くらい経つ)、そうこうしているうちに芥川賞を受賞し、前後してこの『暗闇にレンズ』(…

千葉雅也・山内朋樹・読書猿・瀬下翔太『ライティングの哲学』は、「クォリティを諦めろ」と力強く背中を押す。

この本のおかげでブログを始められました。 千葉雅也・山内朋樹・読書猿・瀬下翔太による『ライティングの哲学』(星海社新書)。 執筆の悩みを抱えた四人の著者が何とかして書けるようになる方法を切実に模索した本だが、何を隠そう私がこのブログを立ち上…

『呪術廻戦0』再読 「里香ちゃん」はなぜすでに死んでいるのか、あるいは少年バトル漫画の原罪

呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校 (ジャンプコミックスDIGITAL) 作者:芥見下々 集英社 Amazon 呪術廻戦の新しさは語りづらい 映画公開をきっかけに芥見下々『呪術廻戦』第0巻を再読してみた。 この漫画の新しさというのはけっこう説明がしづらくて、少…

奈落の新刊チェック 2021年12月 海外文学・現代思想・歴史・芸術・韓国SF・きのこ文学・装飾と犯罪・X線・忍者・ゼウスほか

気になる、面白そうな、読みたい本が無数に刊行されるのに対し、実際に読める本のなんと少ないことか……そんな悲しみに枕を濡らす日々であるが、せめて他の誰かが読んでくれれば少しは報われるのではないだろうか。そうでもないだろうか。 そんなわけで、2021…

寅年なのでボルヘス「Dreamtigers──夢の虎」を読もう

虎と言えばやっぱりボルヘス! 新年あけましておめでとうございます。寅年ですね。 虎と聞いて真っ先に思い出す文学者と言えば、虎が大好きなアルゼンチンの巨匠、ホルヘ・ルイス・ボルヘスです。膨大な知識と緻密で複雑な構成による短編作家として有名なボ…