創元SF短編賞出身作家の芥川賞受賞作 首里の馬(新潮文庫) 作者:高山羽根子 新潮社 Amazon 『首里の馬』は、創元SF短編賞の佳作を受賞してデビューした高山羽根子が、2020年に第163回芥川賞を受賞した小説だ。 私はごく最近『暗闇にレンズ』『オブジェクタ…
シーズン2配信を記念して、シーズン1をざっくり紹介します youtu.be Netflixオリジナルドラマ、シャドウ・アンド・ボーンこと『暗黒と神秘の骨』のシーズン2がこの3月ついに配信された。私はこの王道ファンタジードラマのシーズン1に大変はまっていたので待…
いよいよ新年度の始まりということで、新入学などされた皆様におかれましてはおめでとうございます。しかし海外に住んでると特に思うわけですが、新卒一括採用というシステムはいい加減いつまで続くんでしょうかねえ。などと社会について軽く吟じつつ3月に刊…
現代アメリカ小説の全体像をジャンル別に紹介 薄れゆく境界線 現代アメリカ小説探訪 作者:諏訪部 浩一 講談社 Amazon 諏訪部浩一『薄れゆく境界線 現代アメリカ小説探訪』は、講談社の月刊誌『群像』に掲載された、現代のアメリカ小説を広範に紹介する連載を…
最近の『ファイブスター物語』を読んで考えたこと ファイブスター物語 17 (ニュータイプ100%コミックス) 作者:永野 護 KADOKAWA Amazon このほど永野護『ファイブスター物語』の第17巻が発売された。私も長年の読者なのでさっそく買い、数時間かけて読み、過…
『ムーンエイジ・デイドリーム』ってどんな映画? dbmd.jp いよいよ日本でも公開となるデヴィッド・ボウイのドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』である。吉井和哉による「上映わずか3分で大号泣」というコメントがキャッ…
社会の後戻りできない変化を描いた世界的ベストセラー 昨年あたりから、英語圏で太宰治の『人間失格』(英題『No Longer Human』)がベストセラーになっているというニュースをよく見聞きするわけだが、これと並んでよく売れているというのが『斜陽』(英題…
きっかけはフライザだった。"フライザ"なのか"ラ・フライザ"なのかはいつも論議を呼ぶところで、年配の村医者たちや、称号付けをうけもつ長老たちを悩ませてきた。彼女は正常に見えた。──ほっそりした褐色の体、きれいな歯並み、広い鼻、真鍮色の目。生まれ…
『ギャツビー』の書き出しを読み比べてみる フランシス・スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』と言えば、アメリカ文学を代表するとまで言われる小説だ。1925年に刊行され、アメリカの「狂乱の20年代」を象徴する作品とも言われる。語り手…
2023年2月も終わり、今年ももう16.7%が終了しましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。考えてみれば21世紀も22%は過ぎたのだなと思いますが、そんなことを考えているうちにも新刊はどんどん出てきますね。今月も2月分の新刊チェックを行ってみましょう。 愛…
原資料にもとづくグノーシス入門 歴史や宗教の話が好きな人なら、グノーシス主義について読んだり聞いたりしたことがあるのではないだろうか。初期のキリスト教における、代表的な「異端」である。 私などはグノーシス主義について、単に異端であるだけでな…
台湾に住んでいた時に最もよく食べた地元料理は何か?と問われれば、それは餃子であろう。焼き餃子・水餃子ともによく食べた。ほとんどソウルフードだと思って食べていた気もする。 ちなみに焼き餃子は現地では鍋貼(グォティエ)、水餃子は水餃(シュェイジ…
多ジャンルで活躍する作家の出世作 今回紹介する作家は、このところ膨大な仕事量により各方面で注目されている斜線堂有紀。 私がこの作家を初めて読んだのはSF短編で、アンソロジーに収録された短編「BTTF葬送」「本の背骨が最後に残る」が強く印象に残った…
著名な批評家による、戦争やテロリズムに関する写真論 スーザン・ソンタグは1933年に生まれ、2004年に没したアメリカの作家・批評家である。『反解釈』や『写真論』などの著書、あるいは「キャンプ」という美的概念の定義などでよく知られている。(小説も書…
さて2023年も早くもひと月が過ぎまして、新年の新刊もバシバシ刊行されております。紹介すれどもすれども湧き出る面白そうな新刊。しかし世は出版不況……読み切れなくても買い支えねばなりません。そう、日本の出版文化の未来のために…… というような崇高な使…
ダダイストたちの挑発にまんまと乗せられた観客は、舞台からあふれでるナンセンスな言葉の洪水に腹を立てて、生卵やトマトや腐りかけたオレンジをダダイストめがけて投げつけたり、有名な女優のマルト・シュナル(ピカビアと一緒に見物に来ていた)にフラン…
いわゆる「純文学」というジャンル いわゆる「純文学」という、なんというか独特の、ある一定の形式と雰囲気を持った伝統的な小説のジャンルが現代日本にはあるわけですが、そしてここでの「純文学」というのは広い意味のそれではなくけっこう狭い意味のもの…
新鋭・遠野遥の芥川賞受賞作の主人公はとにかく強い 2019年に『改良』で文藝賞を受賞しデビューした遠野遥による『破局』は、作者にとっての第2作であり芥川賞受賞作である。 ちょうど文庫版が出たので紹介してみようと思ったのだが、一体どのように紹介すれ…
90年代バートン映画ファンの懐古的な語りをお届けします。 さて『ウェンズデー』です。説明不要な気もするものの一応説明すると、往年の大ヒット・ゴシック・コメディー映画『アダムス・ファミリー』シリーズ(原作は漫画らしい)の登場人物ウェンズデーを主…
あけましておめでとうございます。今年も弊ブログをよろしくお願いいたします。さて新年ではありますが、昨年12月の面白そうな新刊チェックから始めたいと思います。旧年中のものどもがまだ我らを離してはくれないというわけです。ではいってみましょう。 首…
火村英生が活躍する「作家アリスシリーズ」の異色作 さて、これから有栖川有栖の小説を紹介するにあたり、確認しておかなければならないことがある。 正直なところ、私はぜんぜんミステリを読まない。年に2~3冊読む、かも?という程度の読者である。 コナン…
私の好きなバラードのSF短編 J.G.バラードことジェームズ・グレーアム・バラードは私が一番好きな作家のひとりだが、以前はその長編について紹介したので、今回は短編の話をしようと思う。バラードの長編と短編は、書かれている内容はかなりの部分共通してい…
日頃のご愛顧ありがとうございます。 こんにちは。2021年12月に始めた当ブログも早いもので一周年となりまして、記事数も100本に達しました。いつも読んでいただき誠にありがとうございます。 というわけで、50本達成の際にもやった記事別アクセスランキング…
博士論文を書籍化した、著者のデビュー作 フランスの哲学者、アンリ・ベルクソンについては、ドゥルーズの本に名前がよく出てくるなあという程度の知識しか無かったのだが、今年はなぜか面白そうなベルクソン関連本が相次いで刊行されるという小ブームが起こ…
BUCK-TICKのお勧めコンセプト・アルバムを唐突に紹介する 音楽を聴く手段がすっかりサブスクに移行し、音楽雑誌を読むこともなくなると、近年はいよいよ音楽なんてその時なんとなく目についたものを聴くという感じになっている。(ちなみに私は音楽雑誌を読…
「廃園の天使」シリーズの短編集(この本から読んでOK) 飛浩隆について書くのは難しい。飛浩隆を読むという体験をどのように書けばいいのか、ちょっとよくわからない。 飛浩隆の小説はSFである。そしてこのSFは、我々を無傷のままにはしておかない。我々は…
さて今月も月初に昨月分の新刊チェックなわけですが、なんとこの新刊チェックも今回で12回目。というわけでこのブログもめでたく一周年というわけであります。自己満足でやっているブログではあるものの、閲覧数がゼロだったらあまりやる気が出ないと思われ…
アレクサンドリア図書館の伝説 古代ギリシアや古代ローマ、そして古代地中海世界の歴史に興味がある方であれば、アレクサンドリア図書館の名前を聞いたことがあるのではないだろうか。エジプトの古代都市、アレクサンドリアにあったと言われる、古今東西の書…
自分が殺される日、サンティアゴ・ナサールは、司教が船で着くのを待つために、朝、五時半に起きた。彼は、やわらかな雨が降るイゲロン樹の森を通り抜ける夢を見た。夢の中では束の間幸せを味わったものの、目が覚めたときは、身体中に鳥の糞を浴びた気がし…
こういう小説が読みたかった 高山羽根子『オブジェクタム/如何様』は最高の作品集である。私はこれを読みながら何度も「うわーっ!最高だ!」と叫びたくなってしまい、とはいえ実際に叫ぶことはせず一人で拳を握りしめたり部屋をうろうろ歩き回ったりするに…